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八尋 美智子(やひろみちこ)さん

むすび庵 店長

手作りの味噌がむすぶ「農と食」、「人と人」

 「今作った味噌がこんなになると?」「いつ食べられるようになると?」次々と質問する子供たち。味噌作り体験教室の講師は、筑紫野市で農作物の生産と販売を営む八尋美智子さん。収穫した大豆や米を原料に、昔ながらの製法で作った味噌の販売と味噌作り教室を開催し、伝統食の素晴らしさを伝えている。また一方で、毎年全国から受け入れている農業研修生の指導や寝食の世話を担う。農を通して“食と人”の関わりを深める活動が多くの人たちを魅了している。

つらい事件を原動力に変え、新しい道を開く

 1996年、夫とともに、無農薬有機栽培の農産物を販売する「むすび庵」を開店した。いつかここで自作の味噌も販売したいと考えていたが、当時は個人で味噌の加工・販売を行うのはまれで、ほとんどが企業や団体だった。また、加工場所の確保や販売許可等の課題があり、事業に踏み切れなかったという。「女性の身で目立ちすぎるのではないか、というためらいの気持ちも大きかった」と打ち明ける。気持ちが揺れ動く中、ある夜に納屋が放火されるという事件が発生。幸いなことに上階の部屋に寝泊まりしていた研修生に怪我はなかった。最悪の事態は避けられたとはいえ、建物は全焼。保管していた米や味噌、農機具などすべてを失う。火災の恐怖と喪失感に苛まれる苦しい日々が続いた。だが、「落ち込んでばかりいても前へ進めない。家族のためにも禍を福へと転じさせなくては」と、自分を奮い立たせ、心機一転味噌の製造に乗り出す決意を固めた。
 先人を訪ねて教えを乞い、家族を説得。後押ししたのは、共に汗を流して働く夫だ。食にまつわる昨今の状況に危機感を持ち、伝統食を守りたいという共通の思いもあり、妻の決意を受け止めたのだ。「仕事は一人ではできません。周囲の助けが絶対に必要です」。たとえ身近な家族であっても、敬意と協力、気遣いを忘れてはならないと語る。家族経営の事業を前に進めるには、家族の力が一つにまとまることが不可欠なのだ。
 今では「そろそろ新しい味噌の時季だね」と心待ちにする客がいる。そのほか、地元から離れた場所に住む子供へ送る人、里帰りした際に立ち寄るファンもいるほど八尋さんの味噌は親しまれている。また、「自分の味噌を作りたい」という人も増えたため定期的に教室を開催。それが評判となり、ゲスト講師として地元小学校に招かれ、子供たちに作り方を教える活動も積極的に行っている。
 「持ち寄った味噌の食べ比べはおもしろい」。同日に同じ材料で仕込んでも保管する容器や環境の違いで全く味が異なるという。「味噌は生きもの。だから毎回楽しみです。これからも続けたい」と、瞳を輝かせる。

絆を育て、縁をつなぐ

 「農と旬を語ろう会」は「むすび庵」の開店と同時にスタートした。毎月、季節の農作業や手仕事を体験し、旬の野菜を調理して味わい、食と農を語り合う場だ。当初から参加している会員はもちろん、一般の参加者、八尋さんの元で農を学ぶ研修生や、同じ志を持つ農家仲間など、幅広い世代の人々が集い、にぎわう。初対面のぎこちなさは、黙々と行う農作業や協力して調理を行う中で徐々に和らぎ、囲んだ料理を味わう頃には自然に笑顔で語り合えるようになる。まるで旧知の仲のように打ち解けることも珍しくないという。研修生の独立を語る顔は、誇らしさと喜びに満ちている。「むすび庵で結婚の披露宴をしたい」と頼まれ、手作りの料理で祝いの会を開いたことや、節目の例会にはるばる北海道から駆けつけた若者のエピソードなど、むすんだ縁を大切に育む温かな人柄が伝わる。
 20周年を機に、息子家族へバトンを手渡そうと考えている。「新しい世代の考え方を学んで、わたしに出来るサポートを見つけたい」と、楽しげに今後の目標を話す。自身の役割を全うするために全力を尽くす生き方は清々しい。
(2015年1月取材)

コラム

料理教室の講師を依頼される機会が増えた八尋さん。地域のコミュニティーセンターの「元気はつらつ講座」では「野菜中心のヘルシー料理」を担当。バラエティー豊かで、親しみやすい味のメニューが人気を呼んでいる。「今後は栄養学や成分など専門的な分野を学び、それらを取り入れた料理を考案したい。様々な場所で料理教室を開いて、新しい出会いの場を作りたいです」と意欲を語る。

プロフィール

筑前町(旧夜須町)の農家に生まれ育つ。1977年結婚後筑紫野市へ。夫と共に家業の農業を営む傍ら生産物の宅配事業を開始。1996年「むすび庵」開店。月例会をスタート。2001年手作り味噌の生産・販売を開始。2003年農山漁村女性チャレンジ活動表彰最優秀賞(農林水産大臣賞)受賞。






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