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南 昌江(みなみまさえ)さん

南昌江内科クリニック 院長

自分と同じ糖尿病の人たちの力になりたい

 美しい木々をのぞむ、開放感あふれる待合室。院内の随所に花が飾られ、花の名を記したカードが添えられている。「患者さんが少しでも和んでくださればと思って、毎週替えているんですよ」と優しい笑顔で話すのは、院長の南昌江さん。子どもの頃に糖尿病を発症したことから糖尿病専門医となり、クリニックを開業。患者の心に寄り添う医師として、厚い信頼を寄せられている。

突然突きつけられた現実に戸惑って

 好奇心旺盛で活発だった南さんが突然の不調に襲われたのは、14歳の夏。異常にのどが渇き、体重が2週間で8キロ減少。小児糖尿病と診断され、即入院した。「生きるためには一生、1日数回自分でインスリン注射を打たなければならないと告げられました。必死に練習して、2週間で打てるようになったんです。今はペン型注射なども開発されてかなり楽になりましたが、36年前は太いガラスの注射器で痛く、消毒も大変でした」と振り返る。
 幸いにも2週間で退院して、自分で毎日注射しながら日常生活に復帰できた。翌年には、糖尿病の権威とされる東京女子医科大学病院の医師のもとを訪れ、診察を受けた。「診断と治療法は同じだったけど、『注射しながら海外を飛び回って仕事をする糖尿病の女性もいますよ。治療法はあるから、前向きに生きていきなさい』という思いやりに満ちた先生の言葉が心にしみて、希望がわいてきました」。さらに、高校1年生のとき、糖尿病の子どもが集まるサマーキャンプに参加して、衝撃を受けたという。「小さな子も自分で注射を打ち、明るく過ごしていました。夜には病気のせいでいじめられるといった悩みも聞いて…。私はもっと強い心で生きていかなければと、ようやく現実を受け入れることができたんです」と語る。

自分が理想とする医療を追求して開業

 同じ病で苦しむ子どもの役に立ちたいと医師を志し、福岡大学の医学部に進学。卒業後は東京女子医科大学病院へ。だが、自分が抱える糖尿病の現実を目の当たりにするのは辛かったと打ち明ける。「合併症で切断した足にウジがわいた人、失明した人など、末期で苦しむ方をたくさん看て、自信を失いました」。けれど初心を思い出し、踏ん張った。忙しい研修医生活の中、C型肝炎も発症。恩師にすすめられ、療養中には自らの体験を本にすべく記録を残した。
 福岡に戻ると大病院に勤務し、多くの患者を次々と診察する状況が続いた。そんなある日「待ち時間が長くてきつい。いつまで通わなきゃいけないの?」と患者に問われ、ハッとした。「私も通院しているとき、冷たい待合室で多くの人がイライラして待つ中、頭が痛くなって鎮痛剤を飲んでいたなと思い出したんです。糖尿病は、一生通院が必要。病院や病気とうまく付き合いながら、充実した人生を送ってほしい。私の目指す医療ができる場を作ろうと決心しました」。35歳で数千万の借金を抱え、ビルのテナントに開業。さらに6年後の2004年、新築で自ら理想とするクリニックを構えた。糖尿病の治療は食事と運動が重要なため、調理実習と運動ができるスタジオを併設。糖尿病療養指導士の資格を持つ看護師、管理栄養士、健康運動指導士とともに、患者のケアに取り組む。「予約制で待ち時間を減らし、チーム医療をしています。そして、長年の願いだった親が参加できる患者会も作りました。母が私を育てるとき、不安だったと思うから」。自身の経験と思いを反映したクリニックは評判となり、4歳から90歳まで月1300人ほどが訪れる。

人の役に立っているという実感が原動力

 糖尿病を発症して36年。インスリン注射で自己管理しながら精力的に活動している。講演などで全国各地へ行く機会が多く、自身が感銘を受けたサマーキャンプにも指導医として毎年参加している。「先生に会えてよかったと表情が明るくなったり、20年の付き合いになるねと言われたり。先日は私の本を読んで医師になったという人がいて、うれしかったですね。人の役に立っているという実感に支えられて、ここまできました。私は糖尿病になったことで命の尊さを知り、医師としての人生を拓くことができた。何でもやってみないとわからない。これからも私の経験と知識が少しでも糖尿病の方のお役に立てれば」。微笑をたたえて話す南さんは、春の陽だまりのように穏やかであたたかい雰囲気に包まれていた。

                                          (2013年11月取材)

コラム

私の大切な時間

40歳を前にして、初めてホノルルマラソンに挑戦して完走した南さん。それから毎年、ホノルルマラソンに患者やその家族と参加している。「熊本から通うお子さんがエアロビをしていて、食事制限や運動についてアドバイスしていたら、日本一、そして世界一になったんです。私も何かできるんじゃないかと勇気をもらって…。完走したことで自信がつき、クリニックを建てる契機になりました。今年は12回目の完走を果たしました。これからも元気を発信するクリニックをモットーに、患者さんたちと歩んでいきます」。

プロフィール

北九州市生まれ。14歳で糖尿病を発症し、医師を志す。福岡大学医学部卒業後、東京女子医科大学付属病院内科に入局し、糖尿病センターにて3年間研修。九州厚生年金病院、福岡赤十字病院勤務を経て、1998年福岡市に「南昌江内科クリニック」を開業。同年『わたし糖尿病なの』を出版。






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【ま】 【研究・専門職】

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