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水田 祥代(すいたさちよ)さん (2011年2月取材)

【ロールモデル】
ロールモデルとは

九州大学名誉教授 / 学校法人福岡学園理事長                        

「まさかの坂」を越えて歩んだ、小児外科医としての半生

 

6歳で決めた、九州大学医学部への進学

 水田さんが「九州大学医学部に行って、お医者さんになろう」と思ったのは、なんと6歳の頃。中耳炎で九州大学病院に入院し、そこで医師にやさしく親切に治療してもらったことがきっかけだった。以来、九州大学医学部入学をめざし、1960(昭和35)年に現役で合格。
 入学当時、医学部の女子学生は70人中5人と少なかった。子どもが好きだったので、当初は漠然と小児科医を志望していた。そんな中、かねてから学内の「英語で医学を学ぶ会」などで英会話力を培っていた関係もあって、東京都立川市の米軍病院でインターンをすることになる。そこで、ベトナム戦争の兵士達が、外科手術により見事に快復していくのを目の当たりにする。この体験をきっかけに、外科の魅力に惹かれ、その後、小児「外科」医を目指すようになった。
 しかし、当時の外科は特に男性中心の世界。「女に手術してもらいたいとは誰も思わない」など、女性への風当たりが強い面もあったが、両親の「本当に自分が好きなことなら、思う存分やりなさい」という言葉や、外科の教授からの「やってみなければだめかどうかわからないだろう」といった言葉を励みに、外科へと進むことになる。

原点ともなった、英国での留学経験

 そんな中、リバプール大学の小児外科の教授が福岡で講演をした際に、通訳を務めたことで転機が訪れる。その教授に食事の席で「小児外科医になりたい」ということを話すと、「それならうちの大学病院に来なさい」とさそわれ、半年後に実際に「来年の3月から勤務することになった」という手紙が届いた。不思議な縁に驚きながらも、小児外科医として英国に2年間留学。
 その2年間は臨床が中心で、1200例もの手術を経験。多い日には、1日に17例の手術を行ったことも。また、小児外科としてだけでなく、英国の先進的で充実した医療体制など、医療人として学ぶべきことも多かった。休日にはあちこちに出かけて、英国やヨーロッパの風土を肌で感じるなど、公私共に刺激を受けた。この2年間の体験は、医療人としての原点ともなった。
 その後は九州大学に戻り、「50年間お世話になった」という言葉どおり、約半世紀に渡り、医療を中心に九州大学の発展に尽力。現在も、「わたし九大が大好き。九大がこれからも発展してほしい」と、九州大学への強い思いを嬉しそうに語る。

これまでの人生、これからの社会

 ご自身のこれまでの人生を評すると、自分ではなるようにしかならないと思っていても、人から見れば「まさかまさか」と言われることの連続であったという。曰く、「人生には3つの坂がある。上り坂、下り坂、もう一つは『まさかの坂』」。
 そういった過去の話をする際、よく「大変だったでしょう?」と聞かれるが、自分自身としては、「こういうものだろう、これが一生続くわけでもないし」と楽天的に考えていたという。「それ程大変とは思わなかったし、楽しかった。教授になろうとか、病院長になろうとか思ってやってきたわけではなく、自分が好きだと思えることを一生懸命やってきた結果の人生です」と笑顔で話す。 
 また、これからの社会や男女共同参画のあり方については、「育児や就業支援など、制度として進んではいるが、女性はそこをエンドポイントとして満足するのではなく、意思決定の場にも是非出ていってほしい。私は『ガラスの天井』(※)は本当はないと思う。天井は開いていると思います。女性達はそれに躊躇しないでほしい」
 「男性も女性も競い合う必要はなく、固定的な意識を持たずに一緒にやっていけばよいと思います。チャンスもフェアに、評価もフェアに。自分自身もフェアに扱われてきたと思っているし、そういうことが一番大事だと思います」。

※ガラスの天井・・・主に働く女性達が、見えない障壁(つまり「ガラスの天井」)に阻まれ、組織の中で管理職などへの昇進が制限された状態であることを意味する言葉。英語では「Glass Ceiling」という。
                                                                                                  (2011年2月取材)

コラム

「森のお医者さん」をコンセプトにした小児医療センター

 子ども達とふれ合うことや、かわいい動物達がとても好きな水田先生。ご自宅では大きな犬のぬいぐるみをお持ちで、学会の帰りに水族館に立ち寄ってペンギンを見たりすることも。
 そういった感覚は、九州大学病院小児医療センター設立時にも生かされました。「森のお医者さん」をコンセプトに、壁に絵本のような動物の絵を配したり、子ども達に優しい、あたたかさや楽しさのある病院をデザイン。同施設は、(財)日本産業デザイン振興会の2006年度グッドデザイン特別賞を受賞し、子ども達からも好評を博しているそうです。

プロフィール

大分県生まれ。九州大学名誉教授、福岡学園常務理事・福岡歯科大学客員教授。日本学術会議会員。専門は小児外科。1966(昭和41)年、九州大学医学部卒業。大学院在学中の26歳の時に英国に留学。帰国後は小児外科医へ。1974(昭和49)年、医学博士号を取得。その後、九州大学講師、福岡市立こども病院・感染症センター小児外科部長、九州大学医学部助教授、同小児外科講座教授を経て、2004(平成16)年、九州大学病院院長(女性として初の国立大学病院長)。同病院の経営・財務体質の改革や、小児医療センターや救命救急センターなど、各種センターの設立にも尽力。2008(平成20)年、女性初の九州大学理事・副学長に就任。財務や国際関係を担当し、また、同大学における男女共同参画も推進した。現在は、福岡学園理事長として同大学がフロントランナーとなって推進している「口腔医学」の創設に携わるかたわら、政府の審議会委員なども務めている。

 

 

 

 


 

 

 

 

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