―福岡県弁護士会のLGBT委員会は、どのような経緯で立ち上がったのでしょうか?
当事者であるNPO法人Rainbow Soup代表の五十嵐ゆりさんと、当委員会の前委員長が、いずれも西日本新聞のコラム執筆者だった関係で知り合ったのがきっかけです。五十嵐さんから話を聞いた前委員長が、私やいろんな分野の弁護士数人に声をかけて勉強会を開きました。
五十嵐さんをはじめ当事者の方々のお話を何度か伺ってみて、私たちは全員ものすごいショックを受けました。世界の見方が変わるほどの衝撃で…。弁護士として人権に関する知識はあったけど、LGBTのことをほとんど知らなかったんですよ。身近にいて、いろんな生きづらさを感じておられると。
LGBTは、「その人らしく生きる」という人権の根幹と深く結びついた問題で、基本に立ち返って人権のことを見直すきっかけになりました。ですから、何かしないといけないという話になったのです。2015年のことです。そこで有志の弁護士が任意の活動としてやっていくかどうかを議論したところ、弁護士会として取り組むべきという結論になりました。発信力が違ってくるので。
ただ、会内でどれだけ理解を得られるか見えないため、まずは2015年に「両性の平等に関する委員会」の一部として小委員会を発足。さらに、もっと機能的に動くため、2018年10月にLGBT委員会を設立しました。
―委員会は何人で活動されているのでしょうか?
勉強会の段階では10人ほどでしたが、特に若手の先生が興味を持って入ってきてくださって、委員会は今35人まで増えました。
―委員会では、どのような活動をされていますか?
外部に向けた取り組みと弁護士会内部に向けての取り組みがあります。
まず外部向きとしては、無料の法律電話相談を月に2回やっています。1回に1件くらいのペースですが、いつでも対応できる体制を整えておくことが支援になると思っています。
電話相談は常にふたり体制で、ひとりが話を聞いているときに、横でもうひとりがわからないことを調べたりできるようにしています。僕らがやれる重要な取組みとして、定着させていくつもりです。
九州レインボープライドにも3年前からブースを出し、法律相談に無料で対応しています。弁護士会がブースを出すこと自体に意味があると考えています。
あとは福岡市の中学校の制服に関するシンポジウムも開催しました。
―弁護士会内部に向けての活動について教えてください。
内向きにも力を入れています。弁護士は人権問題は理解していますが、LGBTのことをよく知らない人もいますので、まずは会内で、当事者や関係者からご相談を受けたときに適切な対応ができるように体制づくりをしなければいけないということで、少なくとも年1回は会員向けの研修を開催しています。テーマごとに、大阪や東京など講師を招いたりしています。先日はLGBTの方の刑事弁護に詳しい弁護士を東京から呼んで話してもらいました。多くの方が研修に参加してくれるので、関心が高いという感じがします。
また、今年5月の総会では「全ての人にとって平等な婚姻制度の実現を求める決議」を採択しました。同性間の婚姻を認める法制度を作るように福岡県弁護士会として発信するという話ですので、全体の合意ができるか懸念しましたが、最終的には反対がすごく少なかった。人権の問題としたことで、その通りだと理解してくれたのかなと思います。
―当事者の方々との関わりが大切なのですね。
僕は同性婚の裁判の共同代表をしています。記者会見などで、原告のふたりが顔を出されて生の言葉で語られると、場の雰囲気がガラッと変わるんですよ。記者さんたちがふたりを支援しなきゃと好意的に受け止めてくださって、それはやはり当事者の語りを聞いたからだと思います。
おふたりのうちひとりは、それまでセクシャリティをオープンにしていなくて、彼自身は職場の人が応援してくれることになって良かったと受け止めてくれているんですけど、どうなるかわからない中でリスクをおかしてくれたので、そういう努力があって理解がすごく進んでいくというのはあると思います。
―これから取り組んでいきたいことはありますか?
今のところ、弁護士会内部に向けての動きとして会内研修のほかにハラスメント規定など会の規則の改正などを行っています。研修では今度、避難所運営をテーマにする予定です。
外部に向けては、電話相談をより広く知ってもらうためにはどうしたらいいかを考えていきたいと思っています。また、学校の制服や校則の問題、例えば福岡の中学ではいまだ男子はこんな髪型、女子はこんな髪型というのが決められていて、子どもの人権問題に外部からどのように介入できるか、検討していきたいと考えています。
―若い層へのアプローチも必要ということですね。
若い人たちの意識はすごく変わりつつあると感じています。ある団体の新入社員にアンケートを取ったら、当事者からカミングアウトを受けたことがあるという回答が25%近かったんですよ。若い人たちの間では、そういう人たちがいると受け止める雰囲気が醸成されているようなので、その新入社員の世代から声があがっていくかもしれないし、子どもたちが変われば学校の先生も変わっていくかもしれない。
社会全員の合意は得られなくても、もう少し時間が経てば、十分な量の人たちが理解してくれるのではないかと淡い期待を抱いています。
―今日は、貴重なお話をありがとうございました。