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汐待 律子(しおまちりつこ)さん (2014年11月取材)

【ロールモデル】
ロールモデルとは

駛馬(はやめ)南校区社会福祉協議会会長 はやめ人情ネットワーク代表世話人

地域ぐるみで認知症患者と家族を支援

 「お隣さんと息をあわせて巻きましょう」。地元小学校の体育館で、住民と一緒に長い巻き寿司を作る汐待律子さん。両隣に声を掛け、様子をよく見ることは、これからの近所付き合いにも通じる。高齢者の増加に加え、認知症患者の徘徊、世話をする家族の負担が問題となり、汐待さんは2004年、校区の住民と共に「はやめ南人情ネットワーク」を結成。認知症患者に声を掛け、地域で家族を支える活動は、全国から注目されている。

“人に寄り添う”活動のはじまり

 生まれ育ったのは八女市。「昔気質な父の方針で大学への進学や就職はせず、お見合い結婚して大牟田に来ました」。明るく社交的な性格で聞き上手。地域にもすぐに溶け込み、近所の人々との信頼関係を築いていった。    
 悩みの相談を受ける機会が増え、助言や解決に力を貸すようになった汐待さん。持ち前の責任感の強さと誠実な対応が大牟田市の職員の目に留まり、少年センター指導員の役を依頼された。当初は断るつもりが、「多様な人生を知り課題を乗り越える努力が自分を磨く。よし、勉強しよう」と思い直し、引き受けた。これを機に地域の世話人としての活動が始まった。心を痛めたのは、自宅で認知症患者の介護をしている家族の現状だった。「認知症が“呆け”“痴呆”と呼ばれていた時代。発症の原因が遺伝や伝染と信じる人がいました」。専門施設や支援者もない孤独な介護。「携わるのは主婦。愚痴も言えず、自分の時間さえ持てません」。一人で担う苦労に触れ、介護する人も含めたサポートの必要性を痛感した。「大切なことは相手の立場を尊重し、土足で踏み込まないこと。『助けてやろう』という目線では、人の気持ちに寄り添うことはできません」と訴える。

ネットワークの合言葉は「ひとりの百歩より百人の一歩」

 疾病の理解を深め、地域で患者を支える方法を学ぼうと2000年の介護保険制度制定に伴い設置された「大牟田市認知症ケア研究会」主催の研修に参加した。特に高齢者が多い居住区で起こり得る様々な問題に強い危機感を覚え、地域ぐるみで“徘徊SOSネットワークづくり”を推進するために公民館や老人クラブ、子供会などへ足を運び、日々説得に努めた。しかし、皆の心を一つにまとめることは容易ではなく、反対の声もあった。そこで何度も対話の機会を設け、根気強く意見を聴き、一人ひとりの思いを真摯に受けとめるとともに、連携の必要性を丁寧に訴えた。折しも、実際に徘徊する患者の保護に奔走するという出来事があり、誰もが「我が身に起こること」を実感。住民たちは「一人で患者を守るには限界がある。地域ぐるみの連携が不可欠だ」という決意で結ばれていった。
 多くの人の力を引き出し、束ね、活動に繋げるには「強引に自分の意見を通さない」ことが肝心だと語る。心の奥に残る反対の気持ちが行動の妨げになるからだ。「男女や世代の違いを超えて“意見を出し合える場”を作る。得意な分野で持てる力を発揮してもらい、気持ちよく協力し合えるようにサポートするのが役目。皆の力を合わせればいろんなことが可能になり、前進できる」。ネットワークを立ち上げた後、医療機関・警察署・タクシー会社・商店などへ連携の輪を広げていった。独居老人宅を中学生が訪問する世代間交流も2005年から始め、年々親交が深まっている。「条件が80%整ったら、『思い切ってやってみましょうよ』と呼びかける。完璧なスタートはないですよ」。

住民の手で育てる地域

 住民が一丸となって何人もの患者の保護に貢献した活動は高く評価され、この取組は、市内全校区でも開始となった。中でも「大牟田方式」と呼ばれる徘徊模擬訓練は、全国100以上の自治体へも広がり注目を浴びている。“認知症患者役”の人が行く先を告げずに地域を徘徊。その連絡を受けた警察・消防・学校・タクシー会社・コンビニなどの商店が患者の特徴を共有。皆が協力して捜索に当たり早期発見につなげる画期的なものだ。2014年、全国の地方新聞社と共同通信社が創設した第四回「地域再生大賞」の最高賞を受賞し、地域活性化のモデルとなった。
 「皆にスポットライトを当て、地域全体を“輝く場所”にしたい」と、今後の展望を語る。日頃から、「持てる力の10のうち、2は社会のために使いなさい」と諭していた父の言葉は汐待さんの礎になっている。  (2014年11月取材)

コラム

コラム

 「趣味は料理」という汐待さんは20年以上続く料理教室の講師でもある。「現在受け持っているのは二つ。その時間がとても楽しい」。教えるのは主に家庭的な日本料理だ。生徒は、小さな子どもを持つ新米ママから80代の主婦までと幅広い年齢層である。「家庭の味が一番のごちそう。豪華な料理を毎日作る必要はないです。季節の食材を上手に使えたら喜んでもらえますよ」。と笑顔を見せる。

プロフィール

八女市出身。結婚後大牟田に在住。1979~2001年大牟田市少年センター指導員。1999年駛馬南社会福祉協議会会長就任。2004年「はやめ人情ネットワーク」結成。同ネットワークは、2007年地方自治法施行60周年記念大会の「総務大臣賞」、2014年「地域再生大賞」の「大賞」を受賞。行政相談委員、民生委員、保護司も務める。

 

 


 

 

 


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