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井上 洋子(いのうえようこ)さん (2015年2月取材)

【ロールモデル】
ロールモデルとは

福岡県人権啓発情報センター 館長

時間をかけても「待ち、そして育てる」愛ある人権啓発を

 県民の人権意識を高め、差別のない社会の確立を図るための啓発活動を推進することを目的とする、福岡県人権啓発情報センターで館長を務める井上洋子さん。同センターでの目標を尋ねると、愛読書の森崎和江さんの著書名である『愛することは待つことよ』が返ってきた。その本の中には「待つことは育てること」とあるという。人権問題も現象を追うだけでなく、長い時間をかけて様々な視点から取り組むことが必要と実感しているという。

学生紛争後家庭人として過ごした期間と文学

 自身の経歴について、とにかく回り道をした人生だったと振り返る井上さん。九州大学文学部在学時は、学生紛争のただ中だった。文学を愛しながらも、紛争の起こる大学内では十分に自分の課題と向き合うことができなかった。
 卒業後、大学で知り合った男性と結婚し、高等学校の非常勤講師をしながら、介護と子育てに追われる日々を送った。高度経済成長期の当時、高学歴の女性にとって、必ずしも活躍できるような社会ではなかった。家庭に入り、才能や学問への興味を発揮できずにいる地域の女性たちとともに、一人では読解の難しい女性史、女性学を含む様々な本を「読む会」を開くようになった。
 「台所を開放したい」という思いもあったこの会の会場は各自の自宅。台所の一角で食卓を囲みながら、「ああでもない」「こうでもない」と議論を重ねた。この会は現在も若い参加者を加えながら続けているという。

主婦と大学院生の両立と教員職

 「もう少し、自分の専門分野について学びたい」という思いが強く、非常勤講師の仕事でお金を貯め、1985年、梅光女学院大学の大学院に入学した。当時、主婦が大学院に進学することはまだめずらしく、風当たりが強く感じられることもあったという。しかし、そのとき大正時代の文学がもつ内なる力に魅了された。あるべき姿と、現実の厳しさの狭間で不器用なほど揺れ動き悩む文学者の姿に、現代の社会で生きている人間の像を重ねた。
1989年から福岡女子短期大学・福岡国際大学において教鞭を取り、大正時代の文学を研究し続けた。2011年、福岡県にゆかりある柳原白蓮の伝記を出版し、話題を呼んだ。
また、福岡市文学館において、労働者文学の収集・企画展示に参加した。これは1950~60年代、炭鉱や製鉄所などで働く労働者の文化活動の記録で、文字の書けない人には書ける人が聞き書きし、ガリ版印刷や木版画で伝えようとする熱気は、かつて盛んだった労働者の文学運動を間近に感じさせ、展示は、成功を収めた。

文学から人権へ、広がる活動の世界

 文学の研究者としての経験、また労働者の文化運動の展示などの活動が評価され、人権啓発情報センター館長に、と話があった際には、「自分は適任ではない」と断ることも考えたという。しかし、自分自身が回り道をして得た経験と、文学を通じて学んだ人間の生き様を生かすことができるなら、と2013年6月同センター館長に就任した。
 「行政にできることは限られているかもしれないが、行政にしかできないことがたくさんある」と話す井上さん。これからセンターでも多様な講演や展示を通して、県民によりわかりやすい活動を展開していく予定という。同センターに来てから「学ぶことばかりで、毎日が充実して、まだまだ勉強の日々なんですよ」と控えめだが、教員として学生の就職活動を見てきたことで、労働環境に関する人権にも大きな関心を寄せている。文学を通じて得たさまざまな感性や知性が県の人権問題の啓発に大きな役割を果たしそうだ。

(2014年10月取材)

コラム

コラム

休日は地域の皆さんと、 お寺の本堂で行われている月2回の合唱に参加している。専門の歌唱指導者を迎えての本格的な合唱。「Shall we dance?」など、ポップな曲も多く歌うといい、地域の活動のあたたかさ、根強さを感じながら、新しい表現を楽しんでいる。

プロフィール

北九州市若松区生まれ。九州大学文学部卒、梅光女学院大学大学院文学研究科博士課程(日本文学専攻)単位取得後退学。1990年福岡女子短期大学助教授に就任。1998年福岡国際大学が設置されたことを機に、同大学国際コミュニケーション学部助教授に就任。その後教授・学科長を経て、2008年同大学同学部学部長・教務部長。2013年3月退職後名誉教授。2013年6月福岡県人権啓発情報センター館長に就任。日本近代文学、近代文化論が専門。著書に『西日本人物誌(20) 柳原白蓮』 (2011年、西日本新聞社刊)など。

 

 

 

 


 

 

 

 

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