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井上 眞理(いのうえまり)さん   (2014年4月取材)

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九州大学 副理事・男女共同参画推進室副室長/大学院 農学研究院教授

続けていれば、いつか花咲き実を結ぶ

 100年を超える伝統と風格を醸し出す九州大学箱崎キャンパスの一角。研究室の扉を開けると、とびきり明るい笑顔と朗らかな声で、農学研究院教授の井上眞理さんが迎えてくれた。部屋を彩るのは、自宅の庭から摘んできたというかわいらしい花たち。ふんわりやさしい花の香りに包まれながら、井上さんのこれまでの歩みや思いを伺った。

植物が大好きだから農学部へ進学

 小さなころから植物に心惹かれ、小学校の卒業文集に「死ぬまで植物に囲まれていたい」と書いていた井上さん。夢への道筋として、九州大学農学部に入学した。「農学部の女子学生は10%ほどでしたが、特別扱いされることもなく、大学生活を謳歌しました」という。
 卒業後は、同大学教養部の教務員として就職。1年の半分ほどは学生実験に占められ、その傍ら、自らのテーマとして植物の耐寒性に関する研究をスタートした。そこで出会ったのが「今の私がいるのはこの方のおかげ」と井上さんが断言する、厳しくも慈愛あふれる恩師だった。「『生きた証として論文を書き続けるように』『日本人だけに読んでもらうつもりか』といわれ、必死に英語で論文を書きました。厳格な指導に涙ぐみそうになることもありましたが、それくらいで泣いてはいけないと恩師にいわれました」。

辞職を踏みとどまらせてくれた言葉

 25歳で助手になり、29歳のときに結婚。まわりには意識の高い女性教員が多く、「女性でも一生働くのが当たり前」と思うようになっていた。夫の理解もあり、植物を扱う研究を続けられることが幸せな毎日。だが、仕事を辞めなければ、と思うことが30代で2度あったと打ち明ける。
 最初は、生後2か月の息子が重い病気にかかったとき。当時は育休制度がなく、子どもを学内の保育園に預け、産後6週間で復職してすぐの出来事だった。おろおろと取り乱して「仕事を辞めて自分で子どもを看る」と告げた井上さんは、母から「私がきちんと世話をするから、辞めちゃだめ」と諭された。結局、息子は奇跡的に助かり、3年後、娘がお腹にいるときに、論文博士として農学博士の学位を取得した。すくすく育つ子ども達とともに、井上さんは仕事と育児を楽しんだ。
 再び「辞職」という2文字が頭をよぎったのは、母がガンを患ったとき。息子が6歳のとき、余命数か月と宣告されたのだ。「母に恩返しをするために辞めようと思います」と恩師にいうと、「そんなことしてお母さんは喜ぶと思うのか」と返され、思いとどまった。そして、愛情をもって一緒に子育てしてくれた父も老いて、どれほど妹が介護を援助してくれたか、かけがえのない家族と仕事の狭間で揺れた井上さん…2つのエピソードを語る目には、きらりと涙が光っていた。

いつか花咲き実を結ぶと信じて

 41歳で教養部生物学の助教授、そして大学院農学研究院の助教授を経て、52歳で教授に就任。一貫して、環境ストレスに適応した植物の生理的なメカニズムを研究してきた。井上さんのもとには、ブラジル、ベトナム、タイ、ミャンマー、韓国など国内外から学生が集まり、研究室には学生たちと撮った写真がズラリと飾られている。それらを愛おしそうに眺めながら、「学生はちょっと刺激を与えると『化ける』ので、その成長を見るのは面白いですよ。作物学の分野では、1970年にノーベル平和賞を受賞した研究者がいるので、学生には志を高く持ち、世界の食糧危機に貢献できるノーベル平和賞を目指しなさいと話しています」。
 現在60名ほどいる農学部の教授のうち、女性は2人のみ。理系女性のパイオニアの一人として道を拓き、九州大学で初めて女性教員として農学研究院の評議員に選出された。「結婚や出産は、ときとして研究生活のハンディキャップになる可能性も否めないけれど、教育の場では多様な経験が活かされると実感しています。尊敬する恩師や先輩、上司をはじめ、何かあったとき『もう、聞いてよ』なんて気軽に話せる友達や家族に支えられて、ここまできました。毎年、卒業する学生へメッセージを贈るんですが、今年の言葉は”Endurance” (エンデュランス、忍耐・我慢・辛抱という意味)。“Endurance makes you stronger.”忍耐があなたを強くする=継続は力なりを伝えたかったのです。逆境を乗り越え続けていけば、いつか花咲き実を結ぶと信じています」。  (2014年4月取材)

コラム

私の大切な時間

 「辛いときや忙しいときを乗り越えるためには、オンとオフの切り替えをうまくすることが大切」という井上さんにとって至福のオフタイムは、自宅の庭の手入れをする時間。古い家を2年前に取り壊し、70坪ほどの敷地をひとりで開墾したそうだ。「半分は花園、もう半分は菜園で、ミステリーサークル風に丸い円を描いたりして、キャンパスで拾った種から育てたトチノキ(東北大学)、ナンキンハゼ(九州大学)、クローバーのコレクションなどいろんな植物を植えています。日曜の午後はのんびり庭の手入れをして、ときどき黒猫が遊びに来るのが楽しみなんです」と微笑む。

プロフィール

福岡県生まれ。父親の転勤で、小学・中学・高校時代を、西宮市・横浜市・熊本市で過ごす。1974年に九州大学農学部農学科卒業。九州大学教養部教務員、助手、助教授(生物学)、同大学院農学研究院助教授(園芸学)、同(作物学)を経て、2004年教授に就任。2014年10月、副理事・男女共同参画推進室副室長に就任。

 

 

 

 


 

 

 

 

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【あ】 【農林水産】 【研究・専門職】

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