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鹿野 寿子(かのひさこ)さん   (2013年11月取材)

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ぶどう・桃農家、福岡県指導農業士

農業のイメージアップ、女性がもっと活躍できる社会を目指して

 筑後市熊野の小高い丘の上にある、鹿野さんの自宅。その周辺には、約2.4ヘクタールの果樹園が広がる。「農業は私の父が始めました。もともとは少し離れた場所にも畑があったのですが、その土地を売って、家の周りの土地を購入し、少しずつ開拓して広げていきました。家事や育児と農業が両立しやすいようにという、父なりの心遣いだったのでしょうね。とても厳しい人でしたけど」と笑顔で語る。現在は、鹿野さん夫婦と長男夫婦とで、ぶどうと桃を大切に育てている。

農業を志す仲間とともに学んだ2年間

 農家の3人姉妹、長女として生まれた鹿野さん。幼い頃から父親に『家業を継いで欲しい』といわれ続けて育った。「農業は嫌ではありませんでしたけど、あんまり跡継ぎの話ばかりされると、反抗する気持ちも正直出てきますよね。若かったから」と笑う。高校卒業後は、親の薦めもあって農業講習所(現・県農業大学校)へ進学。そこは、農業の後継者という同じ境遇の人ばかり。当時は今よりももっと男社会で、女性はクラスに3人だけ。「初めは『女のくせに』という声もありましたが、同じ志を持つ者同士。すぐに仲間意識が芽生えて、刺激し合いながら2年間しっかり学びました」。在学中に農業改良普及員の免許を取得した。

結婚、子育て、そして仕事

 卒業後、家業をすぐに継ぐのではなく、一度は外で働きたいとJAに就職。その後、23歳の時、お見合いで出会ったサラリーマンの男性との結婚を機に就農した。「『農業はこれからの時代とても大切な仕事。受け継いでいこう』と家業を理解してくれ、婿養子に入ってくれました。夫にはとても感謝しています」。両親とは別の畑を任され、ぶどうと桃の苗木を植えるところからスタート。長男、長女が産まれ、家事と育児に追われながら農作業をする日々。農業改良普及員の資格はあるとはいえ、まだ経験の浅い夫婦2人での農作業は苦労の連続だった。最初の数年は、幼木が霜でやられたり、、剪定の失敗から果実が実らず、収量が上がらないことの繰り返し。先輩や指導員に相談して、必死に改善を重ねたという。そんな中26歳の時、突然病気で幼い長女を亡くし、気持ちがふさぎ込む日々が続いた。1年ほど過ぎたある日、3歳の長男が『お母さんの顔にミミズがおるよ。お母さん笑ってよ』とつぶやいた。ハッと我に返り、涙がポロポロ溢れてきた。「いつも眉間にシワを寄せていたんでしょうね。ここから這い上がるために何かしなくちゃ!と気持ちを奮い立たせました」。

農業以外のことに目を向けることで見えたもの

 もう一度本気で農業に取り組みたいと農業女性を対象にした講座にも積極的に参加。もともと好奇心旺盛な鹿野さんは、農業以外の分野にも目を向け始めた。32歳の時、福岡県女性海外研修事業「女性研修の翼」に応募するが落選。「以前、農業後継者育成の海外セミナーに申し込んだときに、行けたのは男性だけでした。農業女性の地位の低さをひしひしと感じましたね。ここで頑張らないと何も変わらない。いろんなものを吸収して、女性でも活躍できることを伝えていこうと思いました」。この思いで、翌年も挑戦し合格。第10回福岡県女性海外研修事業「女性研修の翼」に参加することができた。「研修会のたびに、自分の知識のなさに愕然としていましたが、先輩から『あなたは農業の分野に強みがある。分からないことは、一から学ぶのよ』とアドバイスを受けました。転機になりましたね。これまで自分がぶつかってきた“女性の地位の低さ”を何より変えたくて、懸命に勉強しました」。イギリス、フランス、スウェーデンでの海外研修も経験。35歳の時、農村女性の現状や抱える悩み、海外で見てきたことや「食」の大切さをまとめた発表が、JA全国フレッシュミセス主張発表で最優秀賞を受賞。福岡県女性農村アドバイザーにも認定された。
 農作業のかたわら、農産物のおいしさをPRするため、全国を飛び回り、現在は指導農業士としても指導的な立場から若い農業者の育成に務めている。
 「農業女性も外で学ぶ機会を増やしていくべきだと思います。家事、育児、農作業とやることは沢山あるし、外に出づらいと思っている女性は多いと思うけど、どうしたら外に出られるかを考えて、行動に移していけばいいと思います。私もまだまだこれからも社会参画していきますよ」。と頼もしい笑顔で語ってくれた。

(2013年11月取材)

コラム

 市の公募で集まった仲間と始めたヨガサークル『マーガレットクラブ』は、今年で活動7年目。農繁期をはずして、月2回しっかり身体を動かし、汗を流しているそうだ。時にはサークルメンバーとバスハイクや食事会に出掛けることとも。「異業種の気の合う仲間とたくさん話しをして大笑いすることが一番楽しいですね」とはつらつとした笑顔。背筋がピンと伸びた立ち振る舞いや健康の秘訣はヨガにあるようだ。

プロフィール

筑後市生まれ。ぶどう・桃農家の3姉妹長女として育つ。高校卒業後、農業講習所(現・福岡県農業大学校)へ進学。JA就職、結婚を機に家業へ就農。1993年、JA全国フレッシュミセス主張発表で最優秀賞を受賞。1993年より5年間福岡県女性農村アドバイザーとして活動。現在は、福岡県指導農業士として活躍中。

 

 

 

 


 

 

 

 

キーワード

【か】 【農林水産】

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