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北野 久美(きたのくみ)さん  (2013年10月取材)

【ロールモデル】
ロールモデルとは

北九州市保育士会会長、社会福祉法人愛育会「あけぼの愛育保育園」 園長

人の根っこに関わる「保育」について伝えたい

 陽光があふれ、木の温もりに包まれた園舎の一室。「みんなが素敵だから、写真を撮るよ。にこにこの笑顔を見せてね」と北野さんが声をかけると、園児たちはキラキラした表情を向けてくれた。「園長先生だいすき」「楽しいね」と思いを口にする子どもたち。北野さんは優しい笑顔で、子どもたちを愛おしそうに見つめていた。

自身の園体験がきっかけで保育士に

 「小さいころから保育士になりたかったのですか?」。こちらの何気ない問いかけに「明るい話じゃないんですよ」と、穏やかに語りはじめた北野さん。2歳のときに母親が入院し、4年後に他界。父親は外国航路の船員だったため、祖父宅へ預けられた。祖母も若くして亡くなっており、北野さんは保育園へ。「複雑な思いを抱えた敏感な子でしたね。すみっこに小さい絵しか描けず、『もっと大きく』と保育士さんに言われて辛かった。うまく表現できない私の気持ちをわかってもらえないんだなって」。
 高校生になり将来について考えたとき、真っ先に浮かんだのは「子どもの気持ちに寄り添える保育者になりたい」という思いだった。念願の保育士となり、20歳で「あけぼの保育園」へ就職。しかし、わずか1か月の研修期間に、早くも挫折感を味わった。「理想が高すぎて、現実とのギャップに戸惑ったんです。自分の足りない部分もわかり、ずいぶん落ち込みました」。辞表を持って登園した日、思いがけないことが起こった。ひとりの園児が母親に向かって、こんなことを口にしたのだ。『僕が結婚したいのはこの人だよ』って。「ひとりの子どもの気持ちをつかめたことがうれしくて、頑張ろうと思い直しました」。24歳で結婚、30歳で主任、その後45歳で園長に。夫は大学の保育科で教鞭をとっていたが、現在は「あけぼの保育園」の園長も務めている。

頑張る親の姿をみんな見ている

 2012年、「あけぼの保育園」の隣に自らが理想とする「あけぼの愛育保育園」を開園し、園長に就任。子どもが教え合い育ち合える異年齢保育を取り入れ、隠れ家のような「えほんのへや」を作るなど、こだわりをつめこんだ。一貫して目指すのは、子どもに寄り添う保育。一方で、親への心配りも忘れない。「お迎えの親の様子が気になったら、『おかえりなさい。どうかした?』とひと声かけるようにしています。親が頑張っている姿を子どもも保育士もしっかり理解していますよ。自宅では絵本を読む時間がなかったり、『早く』と急かすこともあるでしょう。園ではゆっくり子どもに向き合い、家庭のぶんまで補います。だから、安心して自信を持って仕事を続けてほしい」とエールを贈る。
 かつての園児が親になり、その子どもが通園してくることも多い。「親子っておもしろいほどソックリなんですよ。例えば、親が園児だったときに読んだ本を読み聞かせすると、その子の感想も言い方もタイミングも親と全く同じだったり。親を知っていると、その家庭の保育観が想像できて、保育しやすい」と語る。

保育士の土壌をしっかり整えたい

 2006年、北九州市保育士会の会長に就任。周囲の後押しで、2代目会長だった義母のあとを引き継いだ。北九州市保育士会は2014年に40周年を迎える組織で、研修時には代替保育士が認められたり、全国に先駆けて一歳児の配置基準にゆとりができたのも、組織力とその実績が大きな力となっている。「皆さんに支えられ、役職のおかげでいろんな会合に出席できて、保育のことを伝えられるのがうれしい」と笑顔で語る。「保育は子どもの一生の根幹に関わる仕事。人としての根っこが育つ大切な時期に寄り添える、非常にやりがいのある仕事です。結果はすぐに見えないけれど、園での過ごし方は人の一生に少なからず影響します。保育の仕事について社会的な認知を広め、処遇を改善し、結婚しても働き続けられる環境を整えたい」と力を込める。35年以上現場で働く一方で、保育士界全体の土壌を強くするために奔走してきた。親と子の幸せを願い、保育士の明るい未来を創るために、北野さんはこれからも活動を続ける。

(2013年10月取材)

コラム

私の大切な時間

「東日本大震災のあと、じっとしていられなかった」という北野さん。現地からのボランティア要請リストに保育士はなかったが、「私にもできることがあるはず」と思い立ち、翌月の連休にひとりお米や寝袋を抱えて東北へ飛んだ。現地ではレンタカーを運転して気仙沼へ。現地の方々の話し相手になった。福岡に戻ると地元の仲間に呼びかけて、東北支援グループを結成。東北の方々の手作り品を販売するなど、交流と支援を続けている。「昨年は東北の人が園に来てくれて、枝のツリーをプレゼントしてくれたんですよ。ここを拠点に人がつながり、支援の輪が広がるとうれしいですね」。

プロフィール

北九州市生まれ。地元の高校を卒業後、保育士養成の短期大学部に通い、「あけぼの保育園」に保育士として就職。24歳で結婚し、30歳で主任に。2006年から北九州市保育士会の会長を務め、各地で講演活動を行いつつ、北九州市保育士会で、保育者や保育を志す学生に向けて「自我の芽生えとかみつき」を編著、DVD「輝く命」なども制作。2012年4月に「あけぼの愛育保育園」園長に就任。

 

 

 

 


 

 

 

 

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【か】 【子育て支援】

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