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樋口 千惠子(ひぐちちえこ)さん (2013年10月取材)

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NPO法人 たんがく 理事長(保健師、看護師、介護支援専門員)

住み慣れた地域で、その人らしく「生ききる」ためのお手伝いをしたい

 久留米市上津町の住宅街にある「たんがくの家」。2011年1月に古民家を改修して開設した、全国でもまだ数少ない、いわゆる“ホームホスピス”だ。ここに暮らすお年寄りは、まるで自分の家にいるような環境の中で穏やかに生活している。「おはよう!今日は寒なったね。もうすぐごはんやけんね。もちょっと、待っとってね」。お年寄り一人ひとりに笑顔で声をかける、理事長の樋口さん。その人らしく生きられる「生活の場」を実現するため、地域密着型のケアを展開している。

地域医療の現場に飛び込む

 地元久留米の高校を卒業後、看護師を目指して東京の看護学校へ進学。その後、神奈川の大学へ進み、保健師の資格を取得した。「地域で看護がしたい」と考えていた樋口さんは、昭和47年、当時最先端の「地域医療」を実践している病院が京都にあることを知る。臨床がしっかりバックにあって地域医療を展開しているその病院に、迷うことなく飛び込んだ。全国から集まった、同じ志を持つスタッフとともに、患者さんの生活に視点を置いた医療現場で働くこと3年。しかし結婚を機に久留米に戻ることに。地元で地域医療を実践している病院を見つけられずにいたところ、偶然、市の職員募集が目にとまる。「そこから30年間行政の保健師として働かせてもらいました。周りからはいつも、“行政らしくない行政人”といわれていたんですよ」と笑う。

行政から事業者へ。看護の集大成

 健康づくりや介護保険、介護予防事業などを担当。多くの事業所と、様々な事業計画に取り組んだ。また2008年、久留米市に保健所ができた際には積極的に業務にいそしんだ。仕事を通じて、医師会や大学の先生など、たくさんの人と知り合い、世界が広がったという。京都での訪問看護師時代、自宅介護や延命治療、「自宅で看取る」ことの難しさ、そして患者を抱える家族の負担を目の当たりにしてきた経験から、行政で働くうち年々在宅ホスピスの必要性を感じるようになってきた。そんな時、ホームホスピスの先駆けである宮崎市の「かあさんの家」を視察したことが、背中を後押しすることに。「そこには生活があったんですよ。終末期のお年寄り一人ひとりが、ここが私の家、私の居場所だと感じて暮らしていらっしゃる。看護職に携わってきた集大成として、『これこそ私がやりたかったことだ!』と定年前の55歳で退職し、たんがくの家を立ち上げました」。

たんがくのような施設を、地域に増やしていきたい

 看護師や介護士など専門のスタッフが、交代で24時間常駐し、入居者のケアにあたる「たんがくの家」。病院やほかの施設で入居を断られた人でも積極的に受け入れ、「最期まで看取る」事業を続けて1年。「たんがくがあるけん、安心してこの地域で暮らせる」と期待と信頼を得られるようになった。一方、入居申し込みは常にいっぱいで、受け入れる余裕がない状態に。2013年には、施設を増設。さらに、デイサービスや宿泊、訪問看護・介護を提供する複合型サービス「上村座(かんむらざ)」を開設した。近所に住む人や学校帰りの子どもたちが、気軽に立ち寄れるコミュニティの場になっている。「たんがくは、当初別の地域でやる予定でしたが、工事に取りかかる直前に近所の人に反対され、一度断念しました。今ここがあるのは、この場所の大家さんをはじめ、事業に賛同する方々との出会いと協力があったからです。事業をやる上で、地元の理解を得て、地域に根ざした活動をしていくことが何よりも大事だと感じました」。昔は「死」がもっと身近にあり、自宅で家族に看取られるのが普通だったが、今ではそれが難しく、多くの方が病院で最期を迎えている。「できれば誰でも自分の住み慣れた場所で、最期まで過ごしたいですよね。もともと日本にはお年寄りをみんなで守り、看取る文化がありました。この事業が、そういった文化を日常に取り戻すきっかけになればと思います」。ホームホスピスが、中学校の数と同じくらい普及していってほしいと語る樋口さん。これからの夢を尋ねると「たんがくを増やしていくこと。そして、地域のみなさんとお互いにできることを交換し、生きがいに変えられる活動を続けていきたい」と目を輝かせた。
(2013年10月取材)

コラム

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「ちょっと疲れたなぁ」と思うときは、すぐにたんがくの家のお年寄りに会いにいって元気をもらうという樋口さん。「笑顔を見るとほんとかわいくて、ほっとします。病気を患っていらしても、柿の皮むきが上手だったり、結ぶのが上手だったり。日々学ぶことばっかりです」。そんな毎日が楽しくて、ストレスがまったくないと満面の笑みで話してくれた。

プロフィール

久留米市生まれ。昭和大学医学部付属高等看護学校(現:昭和大学保健医療学科)で看護を学び、神奈川県立看護教育大学校で保健師の資格を取得。地域医療の先駆けだった京都・堀川病院に3年間勤務。その後、久留米市の保健師として30年勤務。2011年ホームホスピス「たんがくの家」開設。2013年複合型サービス「上村座」開設。
※「たんがく」とは、八女の方言で『両生類のカエル』の意味。漢字で『田楽』。たんぼで遊ぶカエルのように(飾らず、気取らず、自然体で)わいわいがやがや語り合う場にしたいという思いが、込められている。

 

 

 

 


 

 

 

 

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