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加納 恵子(かのうけいこ)さん  (2012年12月取材)

【ロールモデル】
ロールモデルとは

福岡県広域森林組合理事、筑豊地区女性林業研究グループ副会長

どうせやるなら日本一に

 19歳のとき嘉穂町森林組合に就職して、43歳で実務者トップの参事に就任した加納恵子さん。定年退職後も組合理事を務め、女性の研究グループも立ち上げた。男性社会といわれる林業でご苦労もあっただろうと思ったら、「特にないんですよね。私、男とか女とか関係ないから」とあっけらかんと答え、「反対に私が苦労させたかも」と冗談めかす。加納さんには明るく温かいパワーがあふれていた。
 嘉麻市の農家で生まれ育ち、商業高校を卒業した加納さん。森林組合に就職したのは、隣に住んでいた組合理事から「経理を募集している」と声をかけられたのがきっかけ。特に林業の知識も興味もなかったが、すぐ仕事にのめり込んだ。「組織の収支を誰よりも早く見られる経理の仕事が、とにかくおもしろくて。いつもワクワクドキドキしていました」。26歳で結婚、翌年に子どもを授かると、理解のある上司が生後3か月から保育園に預けられるように計らってくれた。次第に林業の現場にも魅せられ、「どうせ働くなら県一、日本一になりたい」と向上心を胸に働き続けた。

全国6人目の女性参事として手腕を発揮

 43歳のとき、参事に抜擢された。当時、女性参事は全国で6人、福岡県においては初という快挙だ。「自分が失敗したらいけない、女性でもできるという前例になりたいと思いました。とにかく一生懸命に仕事をしていれば、まわりが見ていて、助けてくださるんですよ」。職場は禁煙、お茶くみや掃除は男女を問わず、みんなでやるように徹底。さらに、自らが心がけ、部下にも話したことが2つある。ひとつは、人の話をしっかり聞くこと。もうひとつは、相手によって対応を変えないこと。その裏には、自身の経験がある。「お菓子を買いに行った店で、自分には何もなかったのに、別の客にはお茶を出されたの。たった一杯のお茶だけど、そこに店の姿勢が表れていると感じましたね」と打ち明ける。
 参事時代で特に印象に残っているのは、平成3年の台風で森林が甚大な被害を受けたときのこと。先頭に立って被害の調査を行い、半年ほど休まず働いて、早期の復旧を果たした。また、労働力と安全性を確保するため、県内で初めて高性能の林業機械を導入。「うちのような県内でも中規模の組合が導入したことが契機となり、ほかの組合でも導入が進んだと聞いています」。
 林業の担い手不足を解決すべく、平成8年からは現業職員を積極的に採用。技術を習得した人の独立を支援して、地域の人材育成に大きく寄与した。「置かれている立場に甘んじないで、何でも挑戦したい性格なんです。ただ、自分ひとりでは何もできないから、人材育成も重視しました」と語る。

女性のパワーで地域を元気にしたい

 定年退職してからは、「女性の視点から地域を活性化させたい」という思いで、嘉穂地区の女性林業関係者で「つげの会」を結成。さらに、木工や食育活動をしていた女性グループを束ね、「筑豊地区女性林業研究グループ」を立ち上げた。しいたけの原木を販売するほか、ボランティア活動にも励む。嘉麻市の竹林オーナーに地元料理を振る舞ったり、ガールスカウトの子どもたちと茶摘み体験をしたり、子どもの木工教室を開いたり。「次世代を担う子どもたちに興味を持ってほしい。山に入ると『こんなに気持ちがいいんだ』と、子どもはもちろん親にも喜ばれるんですよ」と目を輝かせる。
 一方で、森林や林業、福祉関係など、県や市の委員にも就任。中でも、嘉麻市男女共同参画審議会委員には、自ら立候補したという。それは「夫のおかげで仕事を続けられた」という実感があるから。「夫は『あなたは外に出ているほうがイキイキしてる』とずっと応援してくれて、家事も積極的にやってくれます。共働きの息子夫婦や孫にも『母ちゃんが働くのは大変なことだから、手伝わないと』なんて話すほどなんですよ」と夫への深い感謝とともに、尊敬の念を口にする。
 女性の進出が難しい林業界において、自らがロールモデルとなり、リーダーとして後に続く女性の活躍を推し進めてきた加納さん。平成24年度には、福岡県男女共同参画表彰「社会における女性の活躍推進部門」で表彰された。「まず、参事に引き上げてくださった元組合長の墓前に報告しました。夫には『今まで頑張ってきたかいがあったね』とねぎらわれて…私は本当に人に恵まれていますね。女性グループは、みんなでわいわいがやがやと明るく活動しています。78歳で精力的に活動する先輩もいますから、私も体力が続く限り、新しいことに前向きに挑戦していきたい」。まっすぐな志を持ち、いつでも上を向いて歩いてきた加納さんの笑顔は、雲一つない青空のように晴れやかだった。

                                                                                                 (2012年12月取材)

コラム

私の大切な時間

取材で訪れた加納さんの自宅は、見事な庭が広がる日本家屋。庭のプールには立派な鯉が泳ぎ、加納さんご夫婦と、おしゃべり上手なオウムのふーちゃんが温かく迎えてくれた。「この庭は春の青葉から紅葉にかけて、見事な景観になるんですよ。毎日いろんな鳥も遊びに来ます」とにっこり。そんな加納さんの趣味は「夫とふたりで山野草を見に行くこと。20年くらい前から、年4・5回は九重など各地に出かけているんですよ」。

プロフィール

嘉麻市で生まれ育ち、商業高校を卒業。昭和40年に旧嘉穂町森林組合に就職、平成元年に嘉飯山森林組合の参事に就任して、平成18年に定年退職後、同組合理事を務めた。平成25年4月、嘉飯山森林組合など県内11の森林組合が合併し、県内最大規模の福岡県広域森林組合が発足。理事に就任。
平成19年に嘉穂地区女性林業研究グループ「つげの会」を立ち上げ、翌年にはほかの2グループと共に「筑豊地区女性林業研究グループ」を結成。福岡県の森林審議会など4つの委員、嘉麻市の男女共同参画審議会委員など3つの委員を歴任し、うち3つは就任中。家事・民事調停委員も務めている。

 

 

 

 


 

 

 

 

キーワード

【か】 【農林水産】

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