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香山 みほ(かやまみほ)さん    (2012年12月取材)

【ロールモデル】
ロールモデルとは

福岡県警察本部 生活安全部 子ども・女性安全対策課 課長補佐 警部

「新しい一歩」を応援し続けて30年                                              最大の防犯は、人の関わりを取り戻すこと

 

性犯罪を未然に防ぎたい

 2010年、福岡県警に新設された「子ども・女性安全対策課」。重大な性犯罪につながりかねない子どもや女性への痴漢、公然わいせつ、声掛け、つきまといなど性犯罪の「前兆事案」に対処し、性犯罪を未然に防ぐことが目的だ。性犯罪発生率が高い福岡県。専従の課を立ち上げたのは、全国初めてだった。
 「警察は、犯罪者を捕まえるだけの存在じゃなくて、『防犯』を重視しています」。2012年4月から同課課長補佐を務める香山さんは、「SDE(自己防衛教育)」を県内の高校で実施したり、県内各署と連携して24時間体制でストーカーやDV(ドメスティック・バイオレンス)の被害者の安全を確保するなど、いわゆる『未然防止』業務に奔走する。「被害者に危険が及んでいないか、毎日冷や冷や!」といい、携帯電話が手放せない日々という。
 警察官になった30年前は、女性は交通警察官のみで、性犯罪被害者への事情聴取も男性捜査員が行っていた。福岡県警が初めて捜査部門に女性を配置したのは1988年。260人いた女性警察官のうち14人であった。当時23歳だった香山さんも1期生に選ばれた。
 現在、同課はほぼ4分の1が女性捜査員。県内で最も高い割合だ。「今は、被害者に『担当は男性と女性、どちらがいいですか?』と必ず聞きます。捜査や防犯に、男女双方の視点を生かしやすくなりました」と語る。

犯罪の裏に、人のつながりが薄れた社会

 これまで、少年事件、刑事事件など担当してきたが、振り返ったとき、事件の背後に共通項があることに気づくという。「人の関わりが薄れた社会のひずみが見えるんです。」と香山さん。例えば、ストーカーは以前、「一目ぼれからのつきまとい」がほとんどだったが、最近は「元恋人」「元夫婦」が加害者になる。別れ話がメール一つで済まされ、突然関係を切られた側がストーカー行為に走るケースが目立つという。
 少年事件の子どもたちは、関わってほしくて、でも言える場がなくて、「こっちを見て!」というゆがんだ自己表現から問題行動を起こしていた。「昔は、悪いことをしたら近所のおじさんに怒られたし、駄菓子屋のおばあちゃんと仲良しだったりした。人づきあいが地域にあれば、悪さも一線を越えない。だけど、親からも地域からもかまわれずに育つと、自分や人を大切にできず、犯罪を起こすことにつながると思うんです」。

「いつもここにいるよ!」という存在に

 警察官になった動機を、よく聞かれる。「『子ども』が大好きで、本当は教師が夢だった」と香山さん。希望の大学に進学できず、短大に通っていたとき、たまたま通った警察署前で「婦人警察官募集」のポスターを見かけた。「警察官も子どもと関わることができる職業だ」とひらめいて、翌日が締切りだった願書をもらいに警察署に飛び込んだ。赤い糸に導かれたのかもしれない。見事、合格をつかんだ。
 事件で関わる子どもたちとは、いつも同じ目線で話をする。「そうしたら、いろいろと話してくれる。本当にかわいいですよ。心の叫びを聞いてあげる大人がいれば、更生していきます」。鑑別所から出てあいさつに来た10代の少女には、補導室でアルバイトの相談に乗り、就職の面接対策に金髪を黒く染めてあげた。「その子は、アルバイト先の人とめでたく結婚したんですよ」。新しい人生への一歩を応援すること。それが警察官としての喜びであり、信念だ。
 子ども・女性安全対策課では、DVの被害者支援にその信念が活かされているという。配偶者が加害者だと、情が絡んだり、「子どもの父親を犯罪者にするのか」と葛藤し、被害届を取り下げやすいのだ。「そんなとき、『これが一区切りになって、新しい一歩を踏み出せるんだよ』と一緒に悩み苦しみ、説得するのも、私たちの役割」。事件後に「がんばってよかった」と被害者から聞けた瞬間が、何よりうれしいという。
 自分を思ってくれる存在が心に浮かべば、人は勇気を持って前に進める。「事件後も、『振り返ったら、いつも私はここにいるからね!』という存在でありたい」。人への温かい思いが、力強い瞳にのぞいていた。
                                                                                                (2012年12月取材)

コラム

「私の宝物」

 駆け出し捜査員のころ、事件で関わった“子どもたち”は、もう40歳前後。起業したり、結婚したり、そんな節目に連絡してくれるような人が、10人くらいいる。「お正月に必ず電話をくれる子もいます。彼らに情けない姿は見せたくないから、こちらも『がんばらなくっちゃ』と背筋が伸びるんですよ。私は独身だけど、わが子みたいな気がします。宝物です」とほほえむ。
 香山さんの“子どもたち”が子育て世代になった今、願うのは、「共働きでも、親がいない間に地域が子どもを見られる世の中になってほしい」ということ。人との関わりが取り戻せれば、犯罪は減る。それが現実になることが、香山さんの夢だという。

プロフィール

 遠賀郡水巻町出身。1983年秋、福岡県警の警察官になる。1988年、福岡県警の女性捜査員1期生になる。少年事件や覚せい剤事件、サイバー事件の担当捜査員や刑事、警察学校の助教などを歴任。2012年4月から、警察本部生活安全部子ども・女性安全対策課課長補佐。

 

 

 

 


 

 

 

 

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