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高浪 薫(たかなみかおる)さん

猫の手舎 ジャム作家

うきはの恵みをジャムに込めて届けたい

 広大な平野に、ブドウ、桃、柿などの果樹園が延々と広がる田園風景。筑後地域のうきは市は、フルーツの産地として知られている。人口約3万人ののどかな地で、地元の果物を使い、ジャム作りに熱中する女性がいる。高浪薫さん、彼女の肩書は、「ジャム作家」だ。

「もったいない」という思いに背中を押されて

 夫の実家は、桃や柿、米を栽培する農家。長崎県の大島出身で、短大から会社員時代の約7年間を福岡の都心で生活した高浪さん。うきはを初めて訪れた時、水や野菜、果物のおいしさに感動し、自然の豊かさに魅了された。結婚後は、夫の両親と同居し、うきはでの暮らしを楽しんでいた。だが、長女を出産した数か月後、夫の会社が倒産し、生活を見直すことに。「同居では義母に頼って、夫が子育てに関わらなくなってしまう。一度は夫婦で子育てをしたい」。
 1998年、夫が佐世保で再就職、新しい暮らしがスタートした。2000年には長男を出産、6年間、佐世保で核家族の生活を送った。「貴重な年月でした。夫が子どもの世話をするようになり、家族の絆も深まりました」。2004年、うきはにUターンし、再び同居生活に。夫は地元の企業に就職し、高浪さんは家業を手伝った。うきはは農業が盛んだが、それだけで生計を立てるのは厳しい。一般的に女性は子どもがある程度大きくなるとパートに出るそうだ。「義母は何も言わない人。でも、周囲からはよく『いつ働きに出るんね?』と言われました」。
 桃の出荷を手伝ううちに、高浪さんの中に、ひとつのやりきれない思いが芽生えていった。丹精込めて育てても、少しの傷でただ同然の金額にしかならない。友人に送るにも、桃は傷みやすく日持ちしない。近所からいただく果物も食べきれずに、うっかり腐らせてしまうこともあった。「確かに腐ったら畑に捨てて肥やしにすることもできる。でも、私の故郷では、果物はお金を出して買うもの、腐らせるなんてもったいない」。そうして高浪さんのジャム作りが始まった。

「そうだ!営業に行ってみよう」

 もともとモノ作りが好きで、佐世保では、洋服や石鹸など身の回りのものを自宅で作っていた。毎週のように子どもと図書館に通い、本から作り方を学んだ。ジャム作りも最初は1冊の本からノウハウを得、完成品を友人らにプレゼントしていた。そのうち「何品か欲しいけん作って。買うから」と友人が申し出た。次第に高浪さんの手作りジャムは、「おいしい」と評判になった。 
 その声に後押しされるように、2007年のある日、地元で有名なレストランを訪れた。そこには、雑貨類や加工食品の委託販売のコーナーがあった。約束なしの飛び込み営業だった。経営者に差し出した名刺は、この日のために作ったもの。「猫の手舎」という屋号もイラストも、名刺に入れるために考えた。「私の作ったジャムを、置いてもらえませんか?」自分でも声が震えているのがわかった。「いいですよ。ちょうど地元の食材を使ったものを置きたいと思っていたから」と、あっさりOKをもらったが、ひとつだけ条件を出された。「砂糖も自然のものを使ってください」と。
 そこから高浪さんのジャム作りは奥行きを深めていく。特に原材料や製造方法にこだわった。試行錯誤するうちに、果物の種が天然のペクチンで覆われていることを知り、種まで素材として使うようになった。朝、果物を収穫するところから始まり、銅の鍋でコトコト煮詰めていく。果物の魅力にとりつかれたかのように作り続けた。2種類の果物を組み合わせたり、珍しい植物を使ったりと、これまでに製造、販売した種類は100を超える。「猫の手舎」の商品を置かせてほしいという店舗も徐々に増え、材料となる果物は、もはや仕入れなくては足りなくなっていた。

うきはの魅力を多くの人に、モノ作りの楽しさを子どもたちに伝えたい

 2011年、高浪さんは、自分と同じように起業を志す地元の仲間達と出会った。共同で地元の古い公民館を借りてリフォームし、レトロでどこか懐かしい風合いの「コトコト舎」を作り上げた。家具や食器は、高浪さんがいつかお店を持ちたいと、それまでコツコツ集め続けていたものだ。ラベル制作からビン詰めまで、ジャム作りの全ての作業が自宅から「コトコト舎」に移ったことで、オンとオフの切り替えもできるようになった。収入も増え、夫の扶養から外れたとき、高浪さんは冗談交じりに言った。「私とあなたは今共働きなんです。夕食作りを当番制にしましょう」。自分が冒険できたのは夫のおかげと感謝しつつも、今後の目標をしっかりと見据えた提案だった。「当番制は難しいけど、なるべく協力するよ」。
 現在は、加工を行う「コトコト舎」に拠点を置いているが、近い将来高浪さんのブランド「猫の手舎」の屋号のお店を構えたいという。「地元の人たちが寄ってきてくれる場所を作りたい。子どもたちには体験を通して、モノ作りの楽しさを伝えたい。うきはが好きだから、ジャムを作り続けて多くの人にうきはの良さを知ってほしいんです」。高浪さんの笑顔には、地元うきはへの愛情があふれている。 (2012年7月取材)

コラム

大の猫好き

 猫が大好きだという高浪さん。「屋号にも『猫』の文字は入れたかったんです。手を使ってモノを生み出すのが好きなことから、『猫の手舎』と名付けました」。名刺や商品ラベルに入れたイラストの猫は、以前飼っていた『フクちゃん』。「招き猫の手は、右はお金を、左は人を招いてくれると知って、お金よりいろんな人と出会いたいと思い、左手で招くフクちゃんにしました」とほほ笑む。

プロフィール

長崎県大島出身。西日本短期大学を卒業後、福岡市内の建設会社に勤務。結婚を機に退職し、夫の実家のあるうきは市に住む。出産後、佐世保市の生活を経て、再びうきは市へ。7年前から地元の果物を使ったジャム作りを始め、販売をスタート。コトコト舎をはじめ、福岡県内外の数店舗で、オリジナルの手作りジャムを販売している。一男一女の母。
「コトコト舎」http://kotokotosha.blog.fc2.com/
「猫の手舎」http://nekonote-sya.jugem.jp/






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【た】 【起業】 【農林水産】

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