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今川 英子(いまがわひでこ)さん

北九州市立文学館 館長

そこでベストを尽くす-いつの間にか近代女性作家の研究者に

 「読書は生きる指針」と文学の魅力を熱く語る今川英子さんは、長年にわたり近代文学の研究に取り組んできた。北九州市は、林芙美子、杉田久女、火野葦平や松本清張など著名な文学者たちを生んだ地。今川さんが館長を務める北九州市立文学館は、そんな北九州ゆかりの文学者たちの直筆原稿をはじめとする各種資料を収集・保存し、展示している、文学愛好者にはたまらない、魅力的な場所だ。

女性でも一生続けられる仕事につきたい

 小説は好きだったが、それを職業に結びつけるなど考えたこともなかったという今川さん。当時は女性が男性と対等に続けられる職業というと専門職しかなく、医師か弁護士になりたいと考えていた。ところが大学受験のころに、憧れの友人から女性は文学が向いているといわれ、さっさと方向転換をしてしまう。大学に入って後悔するも、ずるずると大学院まで進んでしまった。ここまできてしまうと研究者の道しかないと考えたが、それにはそれなりの業績が必要になる。偶々、中高一貫の私立女子校の国語教諭の話があり、社会的に宙ぶらりんでいるよりもとすぐに決めてしまった。今川さんは教師になるなど全く予想もしていなかったけれど、中高生との学校生活の日々はとても楽しく毎日が充実していたという。そんな折、ゼミの恩師で近代文学研究の重鎮である吉田精一氏より『林芙美子』全集の編集を任された。作品や関連資料を一つずつ探し、調べ上げ、全集を完成させた。この幸運が研究者への道を開いてくれ、やがて短大に籍を移すことになる。

人一倍の努力の日々と娘に気付かされたこと

 幼い頃から、「これからの女性は仕事を持ち、かつ結婚も子どもも」と言われて育った今川さんは、その言葉どおり、結婚後も仕事や研究を続けるが、優先順位はいつも家事・育児が先。その頃はまだフェミニズムという言葉も耳新しく、「男は外で仕事、女は家庭」というのが一般的な時代だった。会社役員の夫は多忙であり、家事・育児には一切参加しなかった。子育てしながら仕事を続けていく女性は希だったので、後ろ指を指されたくないと、出産前後や子育て中は無遅刻・無欠勤を貫いた。母親の協力がなければ両立は出来なかったという。そうして研究者となりそれなりに落ち着いてきたある日、高校生になった娘に、「ママみたいにはなりたくない」と真面目に言われショックを受けた。理由を訊くと、「だって、今まで人に頼ったり甘えたりしたことないでしょ?もっとしなやかに生きていいんじゃない」と言う。「男の何倍も働かないと女は認められない」と、いつの間にか肩肘張っていたことに気付いたと当時を振り返る。

仕事の対象が生きる指針に

 そんな苦労の中、なぜ研究を続けることができたのか尋ねてみた。その場その場で精一杯努力することで、達成感を得たことと、研究の対象が文学であったということが、細々とでも続けられた理由だということだ。小説を読むと、その世界に感情移入し、自分とは別の人生を生きることができる。人間世界に対する思いが深まり、いかに生きるべきか、どういう人間でありたいか、どう在るべきかを常に考えさせてくれる。文学が、仕事の対象でありながら、一方で生きる指針としてあったからと語ってくれた。

北九州市立文学館の館長に就任

 そして、今川さんに2度目の転機が訪れる。2005年に、全国5箇所を巡回した「林芙美子展」の監修を手がけたことがきっかけとなり、北九州市立文学館の設立に携わることになったのだ。東京から単身赴任で自分が育ったまち、北九州へ。北九州市立文学館の準備委員のあと、2007年の開館と同時に副館長に就任、初代館長、佐木隆三さんのあとを継ぎ、今年から館長として、その手腕を発揮している。

凛として生きる

 今川さんがとても大切にしていることがある。それは、美しい日本語を使いたいということだ。借り物ではなく、心の底からの真情溢れた言葉には、人を動かす魂が宿ると語る。文学を愛する今川さんならではの「言葉」に対する思いが伝わる。
 今川さんは、自分のこれまでのことを振り返り、これからチャレンジしていきたいという女性に向けて、こんな風に語ってくれた。「自分が何をすべきか、何をしたいのか。メディアや情報に振り回されないで、しっかりと自分で考える力を身につけてほしい。考えるのは言葉で考えるのだから、語彙が多いということは複雑な思考にも耐え得るということだ。本を読むことで思考能力を高めてほしい。そして何よりもまずは与えられた場で誠精一杯努力することだ」と。
 教え子たちに常に、「凜として生きよ」と言ったという今川さんだが、それは自らに言い続ける言葉でもあると。

(2012年4月取材)

コラム

今川さんの至福の時間は、自宅で紅茶やワインを飲みながら、恋愛小説に読み浸るとき。髙樹のぶ子さんの小説は全部読んでいるという。テーブルの上にはいつも大判のカラー版歳時記を置いていて、ほっとしたときにページを開いては、季節の植物やそこに添えられた句を愉しんでいる。BGMはシャンソンや静かなジャズ。「西向きの部屋から、沈む夕陽をボーッと眺めてるのが好きです」と語る。

プロフィール

福岡県生まれ。高校教師から学習院大学講師、日本女子大学講師、昭和学院短期大学助教授を経て2005年『北九州市立文学館』開設準備専門研究員として赴任。2007年から副館長として、2012年度より館長に就任。著書に『林芙美子巴里の恋』(中央公論新社のち、中公文庫)他、共著、論文、エッセイなど多数。『林芙美子全集 全16巻』編集。






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