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稲津 千草(いなづちぐさ)さん

木工百科 ぶんぶく堂 木工家

生活の中で、使う人の共感を呼ぶ家具を作りたい

文字より先にハサミを覚えた工作少女

 「まだ字も書けないのに、ハサミは使っていた」と言われるほど、幼い頃から“ものづくり”の魅力にとりつかれていた稲津千草さん。木工家を志したきっかけは高校3年生の秋、文具店で偶然目にした木製のペンケースだ。「雷に打たれた」ような衝撃を受け、進路を美大志望に変更。デッサン予備校に1年通い、念願の木工専攻に進学した。
 「何かを作って人を喜ばせたい、びっくりさせたい、使ってほしい…その繰り返しが、この世界につながったと思います。大学では陶芸や金属、ガラスなどの素材にも触れましたが、子どもの頃から今でも大事にしているものはほとんどが木のおもちゃ。やっぱり木が好きなんです」。
 卒業後はそのペンケースの製作会社に就職を、という当初の思いが変化したのは在学中だ。“ものを生み出す”“形を作り出す”ことの根本的な面白さを知り、与えられた図面に従うのではなく、「自分が考えたデザインを、自分で作る人になりたい」と決意。さらなる技術向上を目指して、大川市の家具職人に1年間、弟子入りした。

「女だから」の束縛を打ち破り、独立へ

 「一を聞けば十教えてくれる」師匠のもと、技術はもちろん、仕入れから販売までビジネスに必要なノウハウを習得した稲津さん。しかし、女性であることを特別視される状況に、次第に違和感を覚えていったという。
 「私の弟子入りを聞いて、冷やかしに来る人が結構いたんです。刃物は研げるか、重いものを持てるかと、『女にはできまい』が大前提。作品が良くなくて批判されるのは構わないけど、女が作っているからという点で判断されるのは嫌でした」。
 「すべて自分が責任をもってやりたい」との思いは強まり、翌年、自身の工房を開設。最初の1年はひたすら制作に打ち込み、30数個の家具を作りためて木の動きを確かめる実験的な期間に充てた。稲津千草の名前を出さない屋号には、「作家が誰であろうと、まず作品を見てほしい」との願いが込められている。 
 「ぶんぶく堂という家具屋があって、商品があって、3番目に初めて『どんな人が作ってるんだろう? あ、女なんだ』となる、それでいいんです。男女関係なく、その人の良さや能力が最初に評価される環境になればいい」。その思いは今も変わらない。

日本人らしさの中に自分らしさを

 稲津さんのものづくりは、まず機能やイメージ、どんな場面でどのように使いたいかを言葉に表し、それを形にしていくことから始まる。大学時代に「自分はどういう形が好きか」と徹底的に突き詰め、たどり着いたデザインのポイントは、「日本人の普遍的な感性」と「バランス」だ。ものづくりに対して日本人が持つ独特の考え方や、古き良き職人の世界に漂う粋な雰囲気を取り入れながら、使いやすく生活になじむ家具を目指している。
 「自分が想像したものが形になった喜びと、それが人の手に渡った時に起こる反応が、一番の原動力。無垢だ手作りだと変な付加価値は付けず、同世代の人にも買えるというのが理想ですね。材木は資源としても限られているし、今作ったものは、確実に私より長くこの世に残っていく。売ったら終わりじゃなくて、ずっと長く、メンテナンスまで責任をもって続けていけたらと思っています」。
(2011年3月取材)

コラム

制作の傍ら、稲津さんが毎日眺めて過ごしているのは、庭に植えた桂の木。大学時代、ピンク色を帯びたきれいな木目に惹かれたのが、桂の木を知ったきっかけだ。材木の木目を見れば何の木か判別できる稲津さんだが、当時は立木の姿を知らないまま卒業。それから10年近くたった頃、たまたま足を運んだ植木市で、ハート形の葉がピンクに紅葉したきれいな木を見かける。「『この木好きだな、可愛いな』と思って近づくと、それが桂だったんです。立木の状態と板になった状態で、好きだと思った木が一致したというのは感動しましたね。それで苗木を買ってきて、いつも眺めてます」と嬉しそうに語ってくれた。

プロフィール

福岡市出身。武蔵野美術大学造形学部工芸工業デザイン学科卒。2003年(平成15年)、大学卒業と同時に大川市の家具職人に弟子入り。2004年(平成16年)、福岡市東区の実家に工房「木工百科 ぶんぶく堂」を開設。特注家具を中心に、無垢材を用いた木製品のデザインから制作、販売までを1人で手がけている。2005年(平成17年)・2009年(平成21年)には福岡県立美術館で個展を開催。2010年(平成22年)11月に工房と同じ敷地内の母屋にオープンした「ぶんぶく堂 古民家ギャラリー」では、毎月3日間のみの展示会を行っている。






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【あ】 【起業】 【文化・芸術/伝統工芸】

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