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湯川 久子(ゆかわひさこ)さん  (2011年2月取材)

【ロールモデル】
ロールモデルとは

湯川法律事務所 弁護士

相手の立場を思いやり、いいところだけを見ればいい

 

父の叱咤と相互扶助の精神に支えられ

 九州第1号の女性弁護士として、50年以上現役で活躍している湯川久子さん。戦中戦後の混乱期に少女時代を過ごした。熊本で生まれ、戦局が激しさを増す中、一家で上海に移住。女学校を卒業後、単身上京して女子専門学校へ進むも空襲に遭い、再び上海へ。終戦後、熊本へ引き揚げる。新たに女性にも門戸が開かれた大学への進学を希望する湯川さんに、「弁護士か裁判官になるなら」と許しを与えたのは、弁護士の父親だった。
 「父は、当時としては非常に考えが進んでいましたね。ワンマンで躾にも厳しかったけど、勉強が好きならどこまでもさせてくれた。司法試験なんて受かるわけないと思ってましたが、『いったん志した以上はやれ』と。卒業後は父の下で勉強を続け、1年経つ頃には『久子はもう、わしを卒業だ』と言ってくれました」
 その後は、当時熊本に配属されていた司法修習生の指導を受け、大学卒業から3年で司法試験に合格。法曹の世界を目指す後輩を先輩がボランティアで教え、その恩をさらに次の世代に受け継いでゆく――相互扶助の精神に基づく“義務”が、当たり前に行われていた時代だった。

家族を養い、子連れで法廷に通う日々

 駆け出しの頃は、国選弁護と先輩弁護士が回してくれる小さな民事事件ぐらい。弁護士という肩書きだけが先行し、世間知らずで無力な自分が情けなかったという。
 「でも県弁護士会の会長や地裁の所長さんが『九州第1号の女性弁護士だから、育て方を間違ったらいかん』と肝入りしてくださって。先輩方も嫌な顔ひとつせず、何でも教えてくれました」。報酬は少なくても経験を積ませ、立派に育てようという扶助の意識が、ここにもあったのだ。
 そうした仕事に一生懸命取り組むうちに、世間の目も変わっていく。「若くて頼りない、おなご弁護士」から「女性の気持ちが分かる先生」へ。開業後、二児を出産し、司法試験に挑戦し続けていた夫と4人の暮らしを、10年近く経済的に支えていたのは湯川さんだ。仕事も家事も子育ても、若さと健康でやり遂げた無我夢中の毎日だった。
 「福岡には友達も先輩もいなくて孤独でしたよ。だからこそ結婚して夫がいたことは助かった。夫は大学の教員になりましたが、話を聞いてもらうだけで、とても楽になりました」

勝ち負けより、その後の幸せを目指す離婚

 多くの離婚問題を扱い、約9000組の夫婦を見てきた湯川さんの目には、最近、自分の主張を通すばかりで、人間関係をうまく築けない人が増えていると映る。相手の立場になって考え、長所だけを見るようにすれば、許せることもあるはずなのに、と。
 「離婚裁判は勝ち負けよりも、その後の人生をどう前向きに、幸せに生きるかが大事。それが離婚の品格ね。離婚後の生活が不安で高額の慰謝料を請求したいという相談は多いけれど、強制執行になっても相手が逃げちゃって一銭も取れないことだってある。とことん争うより、調停や裁判の間に資格を取って仕事を持つとか、ボランティアやNPOでもいい、自立することを考えなさいと説得します。何年も争っているうちに年をとり、自立のチャンスを失うこともありますから」
 無駄に争わず、あらがわず、しかし流されることもない、しなやかな生き方。凛とした湯川さんの姿に、自立した女性の強さと賢さを見ることができる。
                                                                                                        (2011年2月取材)

コラム

いつも朗らかで溌剌とした湯川さんは、仕事を離れた仲間と過ごす時間を大切にしている。「人の噂や家族の自慢話じゃなくて、罪のない、楽しくてためになる話がしたいわね。自分が今していることや興味があることなど」。弁護士業と同じく50年以上続けている能や、コラムなどの執筆も、ストレス解消の場となっている。

プロフィール

熊本市生まれ。帝国女子専門学校(現相模女子大学)を経て中央大学法学部に入学し、1954(昭和29)年、司法試験に合格。1957(昭和32)年、九州第1号の女性弁護士として福岡市で開業、離婚問題を中心に数多くの裁判を手がける。1958(昭和33)年から2000(平成12)年まで福岡家庭裁判所調停委員。2005(平成17)年、第4回福岡県男女共同参画表彰(県民賞)受賞。司法修習生時代に結婚した夫との間に一男一女がある。『法の花暦~弁護士五十年を生きて~』『離婚の品格』など著書多数。能楽宝生流教授嘱託。

 

 

 

 


 

 

 

 

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