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因 利恵(いんとしえ)さん

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福岡県介護福祉士会 会長、日本介護福祉士会常任理事、日本ホームヘルパー協会会長、筑紫女学園大学非常勤講師

介護界の質を高めることで、よりよい社会を創る

 福岡県介護福祉士会会長、日本介護福祉士会常任理事など、介護界の要職を務める因利恵さん。介護の仕事を始めたきっかけを尋ねると、「実はね、単に“週4日勤務・残業なし”という条件にひかれたんですよ」と明るく打ち明ける。だが、仕事にやりがいを感じ、やがて信念を持ち、先頭に立って社会のために行動してきた。

偶然出合った仕事にやりがいを見出す

 因さんが介護の世界に足を踏み入れたのは、32歳のとき。25歳で結婚退職し、子ども2人を出産。専業主婦として暮らしていたある日、「ちょっと働きに出たいな」と思い、たまたま目に留まったのが福岡市の「家庭奉仕員」の募集だった。「仕事の内容に興味があったわけではなく、市の雇用で週4日勤務・残業なしという条件が子育て中の私にぴったりだと思い選びました」。実際の業務は、高齢者や障がい者の自宅を訪れ、2時間みっちり洗濯や掃除、入浴などの介助をすること。雇用は1年契約の更新制で、数年後に「ホームヘルパー」と改名された。
 ほんの軽い気持ちで始めたものの、「非常にやりがいのある仕事でした」と目を輝かせる。「こちらの働きかけによって、利用者さんが見事に変わられるんです。例えば、高齢の方々には『桜がきれいですよ』などと声をかけて、外にお連れするようにしていました。自宅では壁をつたってヨロヨロと歩いていたおじいさんが、外出するときはオシャレして、手を貸そうとすると断られ、しっかり歩かれるんです。すごくうれしかったですね。また、20歳を過ぎた身障者の男性は、ほとんど言葉を話せなかったのですが、毎週好きなマンガの週刊誌を買って行き、横に寝転がって読んで聞かせてあげると、とても喜ばれてね…。そんな介護の醍醐味をたくさん経験しました」と満面の笑みで話す。

現場経験をもとに団体や教育の場で活躍

 だが、思わぬ事態に陥る。1990年、福岡市が「ホームヘルパー制度は廃止して、ボランティア団体にお願いする」という方針を打ち出したのだ。「とにかく驚きました。現場の実感として、この仕事はボランティアでは難しいと思いましたから」。そこで、市のヘルパー140人全員が団結。「闘うことなんて知らない主婦の集まりでしたが、とにかく立ち上がって、街頭演説やビラ配りをしました」。自分たちの処遇改善にとどまらず、社会のためにきちんとした介護制度を確立したい、そんな思いで活動。紆余曲折の末、この方針は立ち消えとなったということである。
 1992年には福岡県介護福祉士会を設立して、会長に就任。「介護福祉士の国家資格が導入され、ヘルパーも資格を取得する中で、職能団体が必要だと考えたんです」。同会の会長を23年にわたり務めつつ、日本介護福祉士会常任理事、日本ホームヘルパー協会会長などに就任。介護の質を向上させるための仕組みづくりに力を注ぎ、処遇改善のため行政への提言も行ってきた。さらに、短期大学などで介護福祉学科の立ち上げに携わり、自らも教壇に立って20年にわたる現場経験を学生に伝えている。
 そんな因さんを家族は応援してくれたという。「家庭奉仕員として働き始めた当初、夫は快く思わなかったようですが、だんだんと理解を示し『皆さんから求められていることはやりなさい』とサポートしてくれるようになったんです。そんな夫と母、義父は7年前立て続けに他界。大切な家族を介護したとき、私は介護福祉士でよかったとしみじみ思いましたね」。

日本の素晴らしい“KAIGO”を世界へ

 現在、日本の介護福祉士はおよそ110万人。高齢化の進行に伴い、人材と資金不足が問題となり、現場は政策に翻弄されてきた。そんな中にあって、活動を始めた当初から、因さんの思いは一貫している。「人々の生活や命をきちんと支えられる介護制度を作り、次の世代に残したい」。さらに「介護は、自分の気付きで誰かの人生を豊かにできる素晴らしい仕事。ぜひ多くの人に働いてほしい」と力を込める。
これまで各国の介護現場も視察してきた。「ある国で訪問したお寺では、要介護者80人ほどが広いお堂に集められ、ベッドの柵に縛られたり、棒につながれ床に寝たりしている光景を目の当たりにして、胸が締めつけられました。真面目で丁寧な日本人の介護は、世界最高レベルだと思います。日本のKAIGOを世界に広めていきたいですね」。足元を固めながら、世界を視野に入れて、因さんの挑戦はまだまだ続く。
(2015年2月取材)

コラム

私の大切な時間

 優しく明るい笑顔で、ときおりユーモアを交えながら、何でも率直に語ってくれた因さん。話していると、こちらの心がパッと晴れわたるような朗らかな雰囲気だ。そんな因さんが5年ほど前からハマっているのは、庭のプランターで植物を育てること。「今はいちごの花が咲いて、金柑がなって、昨日はひょろひょろと細い大根もとれました。ほかにもニラ、ネギ、小松菜、ナス、トマトなど、食べられるものばかり育てているんですよ。毎朝、庭で植物に声をかけて回れば運動になるし、野菜くずは肥料になるからゴミも減って、いいことずくめですね」と楽しそうに話す。

プロフィール

 甘木市で生まれ、中学生の頃から福岡市在住。25歳で結婚して2人の女の子を生み育てながら、32歳で福岡市のホームヘルパーに。福岡県介護福祉士会会長、日本介護福祉士会常任理事、日本ホームヘルパー協会会長、福岡県地域福祉財団理事、筑紫女学園大学非常勤講師、前・第一福祉大学人間福祉学部准教授などを歴任。 共著「ホームヘルパー業務手引き」「ホームヘルパー養成研修指導者マニュアル」、共著「介護を始める」など多数。

 

 

 

 


 

 

 

 

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