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安藤 久代(あんどうひさよ)さん

ヱビス味噌醸造元 蛭子屋合名会社 女将

地域に、全国の食卓に、そして海外に日本のソウルフードを伝えたい 

 飯塚市にある大正5年創業の老舗味噌屋「ヱビス屋」。のれんをくぐると、ふわ~っと味噌の香りが広がる店内に、バラエティ豊かな商品が並んでいる。米こうじ味噌や合わせ味噌など昔ながらのものをはじめ、ビニールのチューブに入った味付け味噌や、スタイリッシュなガラス瓶に詰められた加工食品など、眺めているだけで楽しくなる。企画・商品開発に取り組んでいるのは女将の安藤久代さん。朗らかな笑顔で話し始めたストーリーは、涙と笑いで彩られていた。

一度は離婚も考えた

 短大を卒業後、航空会社で客室乗務員として働いていた安藤さんは、23歳の時、両親のすすめで見合い結婚をした。祖父同士が兄弟でヱビス屋を創業、のちに安藤さんの祖父は田川郡川崎町で味噌醸造店を開業した。味噌屋の娘として育ち「川崎町で家業を継いでもいいと考えていた」という。
 結婚後、夫の両親・祖母との同居生活が始まり、同時に従業員たちや地域の人々との付き合いも始まった。「お店のことは何もせんでいいよ」と言われ主婦業に専念するも、育児や生活面に対する周囲の声が気にかかる毎日。「私の居場所はどこ?」と悩み続け、ついに家から一歩も出られなくなった。夫も話はよく聞いてくれたが、次第に気持ちが追い詰められていった。「これでは、前に進むことができない」。ある日、離婚を覚悟で、小学二年生の息子を連れて実家へ戻った。
 友人らの助言もあり、親子三人で家を借り生活を始めた。外に出られる自由を感じながら、PTAや地域の活動に参加するうちに、冷静な考え方ができるようになったという。「私が未熟でした。振り返れば、ふんどしを締め直すための4年間でした」。家族揃って夫の実家に戻った時、義父母に頭を下げ自らの行動を謝罪した。お互いに心が打ち解けた瞬間、義母から思わぬ一言が。「今日からは、あなたがヱビス屋の女将よ」。

企画、商品開発と日々奮闘!

 「任されたら張り切るのが私」と笑う安藤さんは、会社の仕事全般に関わるように。ある日、知人の言葉が安藤さんの心を動かした。「お味噌屋さんの味噌って、スーパーでしか買えないの?」。自社で量り売りはしていたものの、「事務所には入りづらい」という声も聞いた。そこで事務所の一部を改装して「味噌ショップ」をつくり、他社から豆腐など大豆製品も仕入れて、味噌のPR に力を入れた。「味噌屋が味噌以外のものを売るなんて」という義父の反対にも、「お客様に足を運んでもらうために必要なんです」と主張できるほどになっていた。
 次第に味噌ショップへの客足が増え、さぁこれからという時に、社長である夫が飯塚市の議員を務めることに。会社を空けることが多くなった夫の分まで、安藤さんは精力的に活動を広げていった。福岡県中小企業家同友会に入会し、経営の勉強や異業種の経営者との交流も深めるように。そんな中、2010年にメンバーのすすめで、自社商品の一つ「スタミナ味噌」を「福岡産業デザインアワード」に出品したところ、「福岡産業デザイン賞奨励賞」を受賞した。

さらに100年続く会社に

 「これからは企業として地域に貢献していこう。この地で100年続いてきた会社をさらに100年続く会社にしたい」。夫は市議を一期務めた後、再び社長業に専念することとなった。「夫婦のベクトルが同じ方向を向いた時、新しい風が吹いてきたんです」。
 2011年には “misoya no kitchen”シリーズが、「福岡産業デザイン賞」入賞。「体にいいお味噌をもっと若い人にも食べてもらいたい」と、味噌にトマトやクリームチーズなどの異素材を組み合わせた新しい感覚の商品群だ。調味料マイスターの資格を持つ安藤さん自身が試作を繰り返し、社員に味見をしてもらいながら作り上げた。味はもちろん、斬新なアイディアと手軽さ、お洒落なスタイルが話題を呼び、県内のデパートや雑貨店などにも販路が拡がった。商品はすべて安藤さんが工場で手作りしており、時には自ら大手雑貨店に出向き、試食販売を行う。さらに、海外での味噌の普及にも関心を寄せる。
 一方で、地元の学校で「親子味噌作り教室」を開催するなど、食育にも取り組んでいる。「お味噌は日本人のソウルフード。親子で作ったお味噌が熟成していく様子を観察し、家庭でお味噌汁を作ることが、真の食育になる」とも。
 夢を語る安藤さんの表情は、明るくはつらつと輝いている。「私は意味があってここにいると思うんです。これまで悩んできたことも挫折を味わったことも、すべて自分が成長するための経験。後ろを向いても何もない。前に進むために、自分の役割は何なのかを自分の中に落とし込むようにしています」。息子を連れて家を出た時の涙はもうどこにもない。「失敗してもやり直しはできる。人生は変えられる」。安藤さんの瞳は100年先を見つめている。  (2013年5月取材)

コラム

コーラスが気分転換に

 優しくまっすぐのびる声と丁寧な話しぶりが印象的な安藤さんは、地域のコーラスグループでソプラノを担当している。「人生の先輩方がイキイキと歌っている光景を見て、いいなぁと思い、参加しました」。週に1回の練習には参加できないことも多いが、声を出すことがストレスの発散にもつながっているという。春に行われるコンサートでは、メンバーの夫達が、幕引きやピアノの移動などを手伝うそうだ。安藤さんの夫も照明係として活躍。「裏方に徹してみて、女性達のパワーに圧倒されたようです」と、女性取材陣を笑わせた。

プロフィール

田川郡川崎町出身。短大を卒業後、航空会社に勤務。23歳で結婚し、37歳の時、義母からヱビス屋の「女将」を引き継ぐ。企画、商品開発、製造、販売など実務に幅広く携わっている。2010年、「スタミナ味噌」が福岡産業デザイン賞奨励賞、2011年、「misoya no kitchen」が福岡産業デザイン賞を受賞。2012年には、公益財団法人やまぎん地域企業助成基金より「伝統産業の存続・発展に貢献している企業」として表彰を受けた。モットーは『健康と笑顔を食卓に‥』




 

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