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大下 美智代(おおしたみちよ)さん (2012年10月取材)

【ロールモデル】
ロールモデルとは

済生会八幡総合病院 看護部長、認定看護管理者

看護は正解が1つでないから、より高みをめざして

 総合病院の看護部長として、看護師340人のトップに立つ大下美智代さん。臨床看護師から看護学校の教員を経て、MBA(経営学修士)を取得したという異色のキャリアの持ち主だ。とはいえ、「トップなんてとんでもない。患者さんあっての看護師、看護師あっての私。私は一番下でサポートする立場ですから」と謙虚な姿勢で、人にも仕事にも誠実に向き合ってきた。

柔軟に変化を受け入れ、教員と学生を両立

 「看護師になってみたら?」。大下さんが看護の道を目指したのは、高校卒業後の進路に悩んだときの母親のひと言がきっかけだった。看護師になって24歳で結婚、出産後は仕事を辞めようと思ったが、母親が「私が子どもの面倒をみるから」といってくれた。母親と家族に支えられて臨床看護師を続けていた大下さんに大きな転機が訪れたのは、36歳のとき。勤務先の看護部長から「看護教員を養成する学校へ勉強に行ってきなさい」とすすめられたのだ。「教員になりたいと思ったことはなかったけれど、とりあえず行ってみたの」と気負わずに従い、半年後に看護学校の教員に。そこで、疑問が浮かんできた。「高校までの勉強と看護師経験だけで、学生を指導していいのだろうか…。大学で論理性や知識を身につけたい」と、大学の法経学部へ入学。昼は教員、夜は学生という生活を4年間続けた。当時小学生の子ども2人には、朝のうちに夜ご飯まで用意するなど、家事にも手を抜きたくなかった。「学びたいというよりも、学ばなければという想いで決断しました。法学が身についたのはもちろん、視野が広がりましたね。学生になったことは、自分が教える上でもとても役に立ちました」。

自分で考えた「最高の看護」ができる看護師を育てたい

 教員としての大下さんが心がけたのは、単に自分の知識を教えるだけでなく、学生が看護に興味を持ち、自ら考え学ぶ姿勢が身につくような授業を展開すること。「具体的な実例を出して『こんなときはどうする?』と問いかけ、学生にしっかり考えてもらうスタイルを取り入れました」。
 「自分で考え行動する=自律した看護師」にこだわるのは、自身の現場感覚によるところが大きい。「医師には診断という答えがあるけれど、看護には正解がない」と大下さんはいう。例えば、痛みのある患者さんに、医師は薬を処方する。では、看護師は何をすべきか。「医師の指示通りに処置をしたり薬を出したりすることだけが、看護師の仕事ではありません。そばで声をかける、さするなど、いろんな手だてがあります。相手のニーズを引き出し、その方が自宅に帰った後の生活まで想像しながら対応することも重要。看護師一人ひとりが考え抜き、その患者さんにとってベストだと思う看護を実践できるようになってほしい」、それが大下さんの切なる願いだ。「最近は医療の細分化が進み、レントゲンやリハビリなども専門家がいます。でも、看護の力でやれることはたくさんあるはず。看護って、実はとてもクリエイティブな仕事なんですよ」と笑顔で話す。

環境を改善しつつ、看護師の意欲と能力を高める

 15年勤めた看護学校の閉鎖に伴い、次に打診されたのは、古巣とは違う病院での教育担当副部長。全く新しい環境ながら、持ち前のチャレンジ精神で引き受けた。「まずは病院について知るところから。わからないことはすぐに『ねえ、教えて』と聞いたから、その年の忘年会でみんなにモノマネされちゃってね…」と楽しそうに話す。病院スタッフのおよそ5分の3を占める看護師の育成とマネジメントは、医療の質と病院の将来を大きく左右する重要な任務。看護部長になると、職務の傍ら大学院でマネジメントを学び、MBAも取得した。
 「人を大切に育てていきたい」。そのために、独自の教育プログラムを確立。「意欲のある人を応援しよう」と、特定分野のスペシャリストの証となる認定看護師をはじめ、アロマやリンパマッサージなど、看護師が興味を持った資格の取得も支援している。また、子育てや介護と両立できるように院内保育所を開設し、柔軟な勤務体制を可能に。バースデー休暇やサンクス休暇など、リフレッシュのための制度も整えた。結果として、20%以上だった離職率が10%ほどに落ち着き、2012年には病院として北九州市ワーク・ライフ・バランス市長賞も受賞した。
 院内外のさまざまな人たちと交流し、刺激を受けることが大下さんの原動力。親しみやすい大下さんのまわりには、人や情報が集まってくるのだろう。患者さん、看護師、病院、そして自分のために。肩肘張らず自ら率先して学びチャレンジを続ける大下さんの姿は、後進への何よりのエールになっているに違いない。
                                   (2012年10月取材)

コラム

わたしの大切な時間

 「私ね、サスペンスドラマが好きなんです」という大下さん。「夫には『人が殺される番組ばかり…』といわれるんだけど、推理しながら見るのがおもしろい。まあ、最後のほうには寝ちゃうことも多いんだけど」と大らかに笑う。パートナーとのエピソードを聞いていると、実は看護部長になったことを話していなかったのだとか。「わざわざ自分から話すのもどうかなと思って。夫が病院を訪れたとき、掲示板に看護部長として私の名前が載っているのを見つけて、ビックリしたみたいですよ」

プロフィール

 北九州市若松区生まれ。高校、看護学校卒業後、九州厚生年金病院に臨床看護師として勤務。92年より看護専門学校で専任教員として教鞭を執る傍ら、九州国際大学法経学部(2部)を卒業。2006年、看護学校の閉校を機に、済生会八幡総合病院に教育担当副看護部長として就職。08年より現職。09年より仕事と並行して北九州市立大学マネジメント研究科に通い、MBA取得。11年に認定看護管理者合格、済生会筧水賞(功労賞)受賞。1男1女の母でもある。
(http://www.yahata.saiseikai.or.jp/)

 

 

 

 


 

 

 

 

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