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信友 智子(のぶともさとこ)さん

春日助産院 院長

お産から「幸せの連鎖」取り戻したい~心豊かに命つむぐ生き方、伝え続ける~

お産が家族の「宝物」になるようサポート

 明かりを落とした助産院の畳部屋。陣痛の波に合わせ、いきむ妊婦に信友さんが声をかけた。「そう、上手ですよー。ほら、頭が出てきた。次の波で産まれるよー」。布団の上にさっと防水布を広げ、つるんと出てきた赤ちゃんを受け止めると、すぐに母親の胸に抱かせた。「よく頑張ったね。おめでとう」。赤ちゃんの様子を、家族と助産師がのぞき込んでは談笑する。満ち足りたひとときだ。
 「プライベートで温かいお産は、家族の宝物になる。それがどんなに大切か考えると、しんどいことがあってもこの仕事を辞められない」と笑う。
 医師ではなく助産師がお産を取り上げる助産院では、妊産婦や赤ちゃんに万が一トラブルがあると病院に搬送する。そのため、妊娠中から「健康教育」を行い、食生活や夜型生活の見直しなど、自分で心身を整える術を身に付けさせることも、春日助産院では重視している。

産む人を支える母の姿に触れ、進路変更

 信友さんは2代目院長。母・喜香さん(84)が助産院を開いた1965年は、ちょうど自宅分娩から病院分娩に主流が移る時代だった。反対の声もあったが、「女性の産む力、赤ちゃんの生まれる力を最大限生かしたお産を守りたい」という信念を貫いたという。
 当時5歳だった信友さんは、昼夜を問わず働く喜香さんの姿を見て育った。進路を決める高校3年生の春には、「助産師は無理。管理栄養士になろう」と思っていたという。ところが、内定も決まっていた夏休み、“大どんでん返し”が起こる。小遣い目当てにお産を手伝った際、凜として助産する喜香さんの姿に胸が震えたのだ。
 「母は、一生懸命産む女性に息を合わせ、励ましていた。産む人が母を深く信頼しているのを感じた」。不思議と出血や胎盤の記憶は残らなかった。温かく神聖な空気と、それを支える助産の尊さが体に染み込んだ。開業できる職業であることも魅力に感じ、進路変更を決めた。

祖母世代の不安が今の母親世代に影響

 お産を通して、女性や家族と向き合って30年近く。振り返ると、見えてくるものがある。「実母に立ちあってほしくない、産後も来てほしくない…など、母娘関係が疎遠になってきた気がします」。また、母親になることに夢を描けず、出産を先延ばしする女性が増えたようにも感じている。そうした親子観、家族観の引っかかりの一因に、祖母世代の出産・育児が幸せな経験になっていないことがあるのではないか、と考える。
 今の祖母世代が出産した1970、80年代は、陣痛促進剤なども使った管理分娩が浸透し、辛い処置も我慢するのが「普通の出産」といわれた時代だ。一方で、夫は“企業戦士”で家のことは妻任せという核家族が増えた。地域のつながりの中で安心して妊娠・出産・育児する環境が急速に失われたことが女性を孤立させ、手引書や専門家の助言がないと出産・育児が不安で仕方ないという母親を増やしたとみる。

女性が安心して過ごせる仕組みづくりを

 産む人がどんな母親として育ち、どんな家庭をつくっていくかという視点でお産にかかわる信友さん。「女性が女性として幸せに生きられる環境があり、子どもがしっかり愛されて育てば、次世代の人材は立派に育つ」という思いから、妊産婦の夫には、「パートナーが幸せかどうか、いつも気にしてね」と助言するそうだ。「もちろん、お父さんが笑顔でいられるサポートも大切」と信友さん。男性の方が、親になった自覚を持ちにくいが、「抱っこが上手ですね」など褒められると、わが子を愛おしく感じるホルモンが出やすいのだという。
 女性たちには「もっと体が喜ぶようなことを心掛けて」と伝える。最近、ネットの情報に頼る妊産婦が目立つが、それだと大脳ばかりが活性化して、ホルモン調整や生命活動を司る脳幹が鈍ってしまいやすい。お産のトラブルや不妊、心身の不調にもつながるから、自然を感じたり、体を動かしたり、心身をゆるめることを勧める。
 「昔はお互いさまで、地域の母親同士はよく人の世話になったし、よく人の世話もした。女性はつながり支え合うことで、安心する生き物。心豊かに命つむぐため、つながって支え合う仕組みが必要だと感じています」。その一助になれるよう、信友さんは、自然の中で、女性たちがゆったり過ごせるような助産院のあり方を模索するつもりだ。そこから心地よいつながりが広がり、次世代に幸せがリレーされるよう願いながら。 (2012年9月取材)

コラム

私がハマっているもの

 仕事柄、女性の体の機能に関心が高い信友さん。和服が、日本人の骨格や筋肉の特性をいかす構造であると知り、和服にハマったという。「帯をすると、猫背になりにくいから、仙骨(脊柱の下の骨。骨盤の後壁)が垂直に立つ。その姿勢だと深層筋がしっかりして、体の軸ができる。お産にもすごくいいんですよ」。
 留学経験時は、各国の学生が民族衣装を美しく着こなしていたことにも衝撃を受けた。「自分の民族衣装である和服を着こなせるようになりたい!」と思い始めたそうだ。
 日本人を一番美しく見せるのが着物だということも、海外生活で気付かされたとか。正装としてだけでなく、日常着としても楽しみたいという。

プロフィール

開業助産師の二女として育ち、大学で助産師の資格を取得。卒業後、神奈川県の北里大学医学部付属病院産科病棟に勤務。1984年からは福岡逓信病院産婦人科病棟に勤務する傍ら、春日助産院にも勤務。2年後に病院を退職。1998年、イギリスのテムズバリー大学助産学修士コースカリキュラム終了。2005年、春日助産院の2代目院長に就任。国際協力機構(JICA)にも参加。年間120件ほどのお産を介助している。2011年、財団法人母子衛生研究会主催の母子保健奨励賞を受賞。






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