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第5回 社会的責任としてのワーク・ライフ・バランス、そして夫の産休

あすばるゼミナール (男女共同参画に関して専門家の先生から分かりやすく解説していただきます。)

瀬地山角先生写真  

 

     講師 瀬地山 角 さん

 

      (東京大学大学院 教授)

 

                   瀬地山角さんホームページ

第5回 社会的責任としてのワーク・ライフ・バランス、そして夫の産休

 

今回はワーク・ライフ・バランスを企業の社会的責任(CSR)という観点から考えてみよう。まずは私がいつも使っている次のたとえ話からはじめたい。

 

 植林をしない林業者と植林をする林業者が、自由市場で競争をしたとする。これは必ず植林をしない林業者が勝つ。当然だろう、相手が植林をしている間も伐採を続けられるので、樹一本にかかる工賃を安くできるからだ。しかし市場原理に任せてこれを放置すれば、30年ほどで日本中の山はハゲ山になり、私たちは保水力を失った山林からの大水害、というかたちで、30年間植林のコストを払ってこなかったことのツケを一度に払わされる。実は私たちは、植林をする林業者の高い樹を一本一本買うことで、30年後の大水害を防ぐ費用を積み立てていたのである。これは環境問題のイロハだ。高くても環境に優しい商品を買っていかなければ、環境は守れない。

 

 しかし今回は環境問題がテーマではない。実は、植林をしない林業者は「男性労働者」、植林をする林業者は「女性労働者」、植林は「子育て」を意味している。こう考えると、なぜ企業が男ばかりを深夜まで働かせ続けるかがわかる。男たちは、あたかも背後に子どもや要介護老人はいないかのごとく働く。女たちは、育児休業を取り、復帰しても短時間勤務をし、さらに子どもが風邪のときには早退する。「植林のコスト」は女性労働者の肩にのみ加算されているように、企業からは見えるのだ。一方「植林をしない」男たちを雇い続けることで、企業は実は、次世代の育成に必要な植林のコストを、応分に負担していないことになる。

 

 植林のコストが支払われていないのだから、日本中がハゲ山化する。これが少子化である。労働力を安く使おうという一企業の「合理的」選択が累積することで、社会全体の再生産が危機に瀕するという巨大な「不合理」が生み出されているのである。

 そしてこれを克服するには、「普通に働きながら、普通に子育てができる」という普通のことを普通にできるようにしていく必要があるのだ。そのために、男性の家事・育児参加は不可欠になる。企業が女を雇っても、男を雇っても、「植林のコスト」はついて回る、と認識するようにならない限り、労働市場での女性差別はなくならない。

 

 そのためには男性の家事・育児参加が不可欠である。そのうちの最も手軽にとれる手段の一つは、夫の産休だと思う。企業の側からすると、出産は(性別を問わず)労働者を雇う上での、社会的に求められる費用になる。そして父親の側から見ると、出産時に必ず立ち会うようにして、出産の痛みと感動を共有する。私も2回経験したが本当にすばらしい瞬間だ。人生に家族の誕生と死以上の大事件があるだろうか?少なくとも私にはなかった。だとすれば夫の産休は、忌引きと同程度に社会的に認められてもいいのではないかと思う。

 

 2010年のサッカーW杯で、強豪イタリアを破って、同国初の決勝トーナメント進出を決めたスロバキアの監督は、イタリア戦の勝利インタビューで、「今日は私の人生の中で、息子が生まれた日に次いで、2番目にうれしい日となった」と語っている。

 

 そう、家族との暮らしを大事にするというのは、社会的責任であると同時に、男女を問わず幸せなことであるはずだ。

 

 

 

                       

 

                                                         

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