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第11回  改正パート労働法と賃金差別

 

あすばるゼミナール (男女共同参画に関して専門家の先生から分かりやすく解説していただきます。)

 

     講師 林 弘子さん

 

      (宮崎公立大学 学長)

 

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第11回  改正パート労働法と賃金差別

 

 2009年の日本の女性労働者の労働組合によるILO100号条約違反申立には、非正規労働者に対する不当な低賃金がILO100号条約に違反するという申立も含まれていたが、調査委員会は申立人が具体的な情報を提供していないことを理由にこの問題については取り上げなかった。1985年に雇用機会均等法が制定された時には、女性雇用者に占める非正規雇用者の割合は32.1%であったが、1997年には 40%を超え、2002 年には 50%を超えた。現在では女性労働者の約55%が非正規社員となり、非正規労働者が正規労働者よりも多くなっている。

 

 正社員と正社員あるいは非正規社員と非正規社員の間の賃金差別を争うことはできても、雇用形態の異なる正社員と非正規社員の間の賃金格差を争うことはできるのか。つまり、パート労働者がフルタイム労働者と同一労働をしている場合に、正社員と同一賃金を請求することができるのか。この問題に挑戦したのが、丸子警報器事件である。

 

 丸子警報器では、正規社員と非正規社員が組立作業をしていたが、全員女性である。非正規社員は2カ月の有期雇用であったが、契約更新を重ね、長い人は勤続25年を超えていた。その間、非正規社員は、正社員と勤務時間も勤務日数も同じで、まったく同じ仕事に従事してきたにもかかわらず、正社員の約半分の賃金しか支給されていなかった。非正規社員が不当な賃金差別であると主張して、不法行為に基づく損害賠償を求めて提訴したのである。丸子警報器事件は、男女間の賃金差別、つまり性差別ではなく、雇用形態による女女間賃金差別を争った事件である。したがって、労基法第4条の適用はない。

 

 1996年に、裁判所は、同一(価値)労働同一賃金の原則が法律上規定されてないために、同一(価値)労働同一賃金は公序として確立しているとはいえない。しかし、同一(価値)労働同一賃金の原則の基礎にある均等理念に反する賃金格差は、裁量の範囲を逸脱し、公序良俗(平等取扱い)違反となる場合があるとして、非正規社員に正規社員の8割以上の賃金の支払いを命じた。この8割の根拠は、不明である。

 

 この判決の後、2007年にパート労働法が改正され、①職務内容が同じ、②転勤その他の条件が同じ、③雇用期間の定めがない、の3要件を満たすパート労働者について正社員との賃金その他の労働条件における差別を禁止する条文(第8条)が規定された。丸子警報器事件のように有期雇用契約を何度も更新して期間の定めのない契約と変わらない契約に変わっている場合も③に含まれる。したがって、パート労働法改正後は、丸子警報器の非正規社員は、正規社員と同じ賃金を請求できることになる。しかし、①~③の要件を満たすパート労働者は極めて限られており、実効性は上がっていない。パート労働法第8条は、同じ労働をしているパートと通常の労働者の差別を禁止した規定であり、異なった労働をしている場合の同一価値労働同一賃金原則に関する規定ではない。

 

 2010年の第3次男女共同参画基本計画の中に、ILO100号条約の実効性確保、パート労働者と通常の労働者との同一価値労働・同一賃金に向けた取組が入っているが、ILOがこれまで何度も指摘しているように同一労働と同一価値労働を厳密に区別して、職務の客観的評価制度を確立しなければ賃金格差の是正は実現できない。

 

 女性労働者の非正規化が急速に進む中で、所得が少なく生活が苦しい女性の増加が注目されている。相対的貧困率とは、国民一人当たりの可処所得を高い順に並べ、真ん中になる人の所得額の半分に満たない人が全体に占める割合のことである。厚労省の2010年の国民生活基礎調査では、年間の可処分所得112万円未満の人が全体に占める比率となっている。この調査によれば、勤労世代(20~64歳)の単身で暮らす女性の相対的貧困率は32%、同じ世代の単身男性は25%、65歳以上の単身女性では47%、同年代の単身男性の29%よりもかなり高い。19歳以下の子どもがいる母子世帯では48%であった。女性の貧困化は、深刻な社会問題となっているのである。

 

 

                      

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