【ロールモデル】
ロールモデルとは
有限会社BOND 代表取締役社長
かわいいアニメキャラクターが、画面上で表情豊かに語りかける。BONDが開発した「スマートアバター®」は、パソコンやスマートフォンにセリフを入力するだけで、キャラクターが自動で表情や仕草を考えながら発話する動画生成システムだ。社長の古川ひろ美さんは、商品に込めた願いを熱く語る。「人間間の伝える絆を創造し、コミュニケーションギャップを埋める一翼を担いたい。キャラクターの動画を使って皆が平等に社会で活躍できる新時代を切り拓きます」。
造船工学者だった古川さんの父は、設計の技術を活かして印刷会社を創業した。新しい技術を積極的に取り入れ、常に学び挑戦する父の背中を見て育った。古川さんは大学でデザインを学び、共に事業を支えるためにグラフィックデザイナーとして入社した。
その後、父が病に倒れ闘病生活が長く続いたため、40代半ばで事業を引き継いだ。印刷技術は日進月歩で変化していく。技術者ではない自分が事業を存続させるためには、デザイナーの感性を活かした新しいサービスで勝負するしかない。紙媒体を超えた情報サービス産業に着目し、会社の設備やシステムを一新。「人をつなげる双方向のコミュニケーションの絆になる」という思いを込めて、社名を「BOND （絆）」に変えた。そこには「情報産業に貢献し絶対にこの会社を存続させていく」という父への強い決意もあった。社名変更から2か月後、父は他界した。
「本気で新規事業をやっていこうと覚悟を決めました。技術革新の先頭を走るのは、創業者である父の精神です」。
インターネット業界の急速な発展を受け、古川さんは「動画による広告が一般的になる」と確信していた。情報通信（ICT）分野の技術者を積極的に採用し、BONDならではの情報媒体を模索研究。商品開発は試行錯誤の連続だった。地方の中小企業が生き残るためには、オンリーワンの商品でなければならないと、オリジナリティのあるサービスを目指した。
単に情報を伝達するのではなく、人の感情に訴えられる商品を創りたいという思いを軸に、「伝える」ことと「人の感情」にこだわり、個性豊かな社員と一緒に構想を形にしていった。
約２年の開発期間を経て、セリフを入力するだけで、画面上のキャラクターが感情表現まで演出する「感情類型データベース」の技術など、特許を取得した。
仕事をする両親を見て育った古川さんにとって、働くことは人生そのもの。子どもが小さいときは、ベビーカーを隣に置いて仕事をしてきた。思いついたアイデアはすぐにメモできるよう、枕元にも付箋を置いている。「リフレッシュのために始めた習い事も、上達の基本は仕事と同じだと思っています。相手の立場を弁え積極的にコミュニケーションする事が大切ですね。」と笑顔で話す。生活から趣味まで全てが仕事に活かされている。
現在、BONDが開発した動画生成システムは、大学の講義、大手企業の商品説明、自治体の広報などで活用され、導入事例は着々と増えている。将来は2020年オリンピック・パラリンピック東京大会の案内役から個人が配信する日常的な動画まで、幅広い利用と普及を目指す。
「コミュニケーションが苦手な方や障がいのある方にも、自由に使ってほしい。スマートアバターがいつもそばにいて助けてくれる、生活のパートナーのような存在に育ってほしいですね」。（2015年2月取材）
多忙な毎日を送る古川さんのリフレッシュタイムは、週末のランチ。「母と一緒にいろんなおしゃべりをしながら、ちょっと豪華なランチをするんです」。母は今も現役で経理を担当。80代とは思えない若さで、いつも明るい笑顔で会社を支えている。「自衛官をしている息子からも学ぶことがたくさんあります。家族や人のご縁は本当に宝物ですね」。
北九州市出身。九州産業大学芸術学部デザイン学科卒業後、父親が1950年に創業した古川写真印刷工芸社にグラフィックデザイナーとして勤務。2006年に会社を継承し、代表取締役就任。社名をBONDに改名し、情報サービス産業に乗り出す。2008年、キャラクター動画ソフトウェア「スマートアバター®」の販売を開始。2013年「第13回MITビジネスプランコンテスト＆クリニック」のスタートアップ部門で優秀賞（一位）を受賞。2014年「第3回DBJ女性新ビジネスプランコンペティション」ファイナリスト。
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